83歳男性。既往に肝細胞癌、白内障あり。初診35ヶ月前より、多発性骨髄腫に対してデノスマブで加療中であった。初診6ヶ月前から下顎に約3cm程度の腫瘤を認めた。その後、徐々に拡大し出血と滲出液を伴ってきたことから当院形成外科を受診し、悪性腫瘍の可能性も考えられ、同日当科にコンサルトとなった。初診時、下顎部にくるみ大の範囲に排膿を伴う結節を認め、同日よりナジフロキサシンクリーム1%外用とミノサイクリン塩酸塩200mg/日内服が開始された。初診2週後には結節は縮小し、初診時に提出された創部培養からはcoagulase negative staphylococciが検出されたのみであった。下顎骨CTでは、下顎骨との関連は指摘されなかった。抗菌薬内服と外用により丘疹は小指頭大程度の血痂となったがその後潰瘍化した。潰瘍は縮小と悪化を繰り返し難治のため、悪性腫瘍のほか真菌や抗酸菌による感染症などを鑑別に、初診2ヶ月後に皮膚生検を施行した。皮膚培養検査では細菌、真菌、抗酸菌いずれも陰性であり、病理組織学的には非特異的な慢性潰瘍を示唆する所見であった。潰瘍治療として、精製白糖・ポピドンヨード軟膏やスルファジアジン銀クリームを用い、初診7ヶ月後には米粒大程度の紅色肉芽を3ヶ所認めるのみとなったが、同部位からの排膿を再度認めたため二次感染を疑いアモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウム750mg/日内服を開始した。再度施行した下顎骨CTでは潰瘍近傍の下顎骨に骨皮質の粗造な骨形成を認め、歯槽頂の骨皮質は一部不明瞭化していた。口腔外科に紹介したところ、デノスマブによる薬剤関連顎骨壊死および外歯瘻の診断となり、デノスマブは中止された。口腔外科では外科的治療の適応なく保存的治療の方針となり、下顎部の皮膚病変に関しても外用治療を継続し現在経過観察中である。外歯瘻の原因の多くは根尖性歯周炎や歯根嚢胞といった感染症であり、薬剤関連顎骨壊死による報告は極めて少ない。顔面に難治性の潰瘍を認めた場合には薬剤の使用歴を確認し、薬剤関連顎骨壊死による外歯瘻の可能性も念頭に置くことが重要と考える。