【目的】2014年に上市されたSGLT2阻害薬(本薬)は、糖尿病のみならず心・腎への有効性が明らかになり、高齢者への処方も増加している。高齢者はサルコペニアやフレイルへの対策が必要であるが、本薬は高齢者には脱水や体重減少に留意して投与するよう指示されている。この観点より、本薬の高齢者への処方の経年的推移を調査し、さらに本薬を3年以上投与した高齢糖尿病症例における有効性および体重への影響を検討した。【方法】1)2016年以降2022年までの当院における本薬の処方数の全体および高齢者(75歳以上)の推移を調査した。2)本薬の投与開始時の年齢が77歳以上で3年以上継続投与された糖尿病患者24名[80.3±3.3(平均±SD)歳、男16名]を対象とし、投与1年および3年後のHbA1c などの検査値、体重などについて後ろ向きに調査した。また体重減少にて本薬を中止後に心不全を生じた1症例を提示する。【結果・考察】1)本薬が処方された総人数および高齢者人数とその割合は各々、2016年は46名、3名(6.5%)、2018年は215名、17名(7.9%)、2020年は405名、58名(14.3%)、2022年は568名、144名(25.4%)であり、本薬の高齢者への処方の著増傾向がみられた。2)本薬投与前、1年および3年後の体重(kg)は各々67.9±9.4[BMIは26.8±2.5(21.4~31.1)]、64.7±8.8、63.2±9.3で、3年後には平均4.7kg(6.9%)の有意な(p<0.001)体重減少をきたした。10%以上の体重減少率が5名(21%)に認められ、高齢者のサルコペニアを助長させるリスクを認識しておくべきである。HbA1c(%)は各々8.36±0.94、7.49±0.73、7.39±0.65と有意に(p<0.001)低下しその有効性が再確認され、eGFR(ml/min/1.73m2)は各々49.9±16.4よ、49.7±16.3、51.7±17.7と維持された。eGFRは、本薬投与後利尿薬を中止・減量できた群(6名)、体重減少率の大きかった(8.7~19%)群(11名)で、改善傾向を認めており、利尿薬の減量がeGFRの維持に関与すること、また筋肉量減少による見かけのeGFR改善の要因を考慮すべきである。また87歳男性(陳旧性心筋梗塞あり)で本薬投与3年後体重減少のため中止し、その後息切れ、BNP上昇、胸水貯留をきたした症例を経験した。【結論】本薬の高齢者への処方は著増していた。高齢者においても血糖値や腎機能への有効性が示されたが、著明な体重減少をきたしうること、また本薬中止後の心不全発症リスクを認識しておく必要がある。