【目的】ワルファリンの抗凝固能はビタミンK依存性凝固因子の生成と関連しており、ビタミンKの体内量が上昇することでワルファリンの作用は拮抗される。そのため、ワルファリン療法中はビタミンKを多く含む青汁、クロレラ、納豆などの食品との併用は避けなければならない。納豆はビタミンK2(メナキノン)の一つであるMK-7を含む。しかしながら、納豆摂取によりPT-INRがどのように変化するかを時間推移で示した報告は見当たらない。そこで今回、MK-7がワルファリンの抗凝固作用を阻害するとしたPharmacokinetic-Pharmacodynamicモデルに従い、ワルファリン療法時のPT-INRに対する納豆摂取の影響について経時的シミュレーションを行い検討した。
【方法】ワルファリン、MK-7、凝固因子の体内動態は線形1-コンパートメントモデルに従うとした。凝固因子は0次速度で生成、1次速度に従い分解されるとし、血中のワルファリンおよびMK-7がそれぞれ凝固因子の生成を阻害あるいは促進するものとした。納豆に含まれるMK-7量は600μg/100 gとした。シミュレーションの条件として、患者は体重60 kgで、ワーファリン錠1 mg 4 錠を1日1回繰り返し経口投与中であり、納豆は1食あたり50 gを摂取すると仮定した。シミュレーションは、Microsoft Excelのマクロを使用したRunge-Kutta-Gill法による数値積分法により実施した。
【結果・考察】納豆摂取前の定常状態におけるPT-INRは1.78であった。納豆を1度食べることで、INRは1.48まで低下し、摂取前のレベルに戻るまで10日以上の期間を要した。この原因として、MK-7の消失半減期が72時間と長いことが考えられた。納豆を毎日摂取したときのPT-INRは3日目に1.35、10日目に1.28、1日おきに摂取したときは10日目に1.34まで低下した。納豆を3日間だけ連続で摂取した後のPT-INRが摂取前のレベルに戻るまでには約16日間が必要であった。これらの結果から、納豆摂取によるPT-INRの低下は1.3程度で頭打ちとなるが、摂取前のレベルに戻る時間は摂取回数に応じて長くなることが予想された。
【結論】ワルファリン療法中の納豆摂取は、例え1回であってもPT-INRに長期間影響を及ぼすことが確認できた。