【目的】慢性腎臓病患者における骨ミネラル代謝の異常(CKD-MBD)は、生命予後に影響を及ぼすことが知られており、その影響の一つとして、骨折リスクの増加が懸念されている。骨折リスクを低下させることは、生命予後の改善や血液透析患者のQOLの向上に直結する。CKD-MBDで頻出する二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)では、活性型ビタミンD製剤やカルシミメティクス製剤により血中intact PTH濃度を管理することが重要であり、SHPTを制御するとともに骨折リスクの長期的な低下が確認されている。一方で、血中intact PTH濃度の管理目標は、日本と海外でガイドラインが異なり、日本透析医学会ガイドラインでは、生命予後の観点からより低い血中intact PTH濃度目標を定めている。本研究では、MBD-5D研究データを用いてSHPTを有する血液透析患者の数理モデルを新たに開発し、SHPT血液透析患者に対して血中intact PTH濃度を低濃度で管理した場合の骨折リスクをシミュレートした。
【方法】血中・消化管・腎臓・骨などにおけるミネラルの収支を定量的にモデル化した既報の数理モデルをベースに、SHPT血液透析患者を対象とした長期コホート研究であるMBD-5D研究データを用いてモデルを改変することで、SHPT血液透析患者を表現する数理モデルを開発した。開発したモデルを用いて、仮想のSHPT血液透析患者群にカルシミメティクス製剤であるシナカルセトを投与するシミュレーションを実施し、血中intact PTH濃度を異なる濃度で管理した場合の長期的な骨折リスクへの影響を評価した。
【結果・考察】仮想のSHPT血液透析患者群について、血中intact PTHを海外基準である585 pg/mLまたは日本基準である240 pg/mL以下で管理したところ、低値で管理した群において、大腿骨及び腰椎骨密度の増加や骨折リスクの低下が予測された。この結果は、血中intact PTH濃度の低濃度管理が長期的な骨折リスクの低下に影響することを示唆する。SHPT血液透析患者を対象とした国際的なコホート研究(DOPPS)では、研究参加者の年間骨折数が、海外に比べて日本で少ないことが分かっており、今回の予測では、このコホート研究結果と同様の結果が得られた。
【結論】本研究では、MBD-5D研究データを用いてSHPT血液透析患者を表現する数理モデルを開発した。また本モデルを用いることで、血中intact PTH濃度の低濃度管理が長期的な骨折リスクの低下に影響することを示唆するデータが得られた。