【目的】膵臓がん治療における化学療法は1次化学療法と2次化学療法、共にFOLFIRINOX療法(フルオロウラシル(5-FU)+レボホリナート+イリノテカン(CPT-11)+オキサリプラチン(L-OHP)、以下FFX)とGnP療法(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル)が使われているため、強烈な副作用を伴うことが膵癌患者のQOLと予後に影響を及ぼしている。最も深刻な副作用が骨髄抑制であり、がん治療を継続して完遂するためには発症前の対処が期待される。そこで、本研究ではFFX療法時の血漿中抗癌剤濃度と骨髄抑制パラメータとの関連性について薬物動態/毒性薬力学(PK/TD)解析に基づいて発症前の用量設定の可能性について検討をおこなった。
【方法】Wistar系雄性ラットに7,12-ジメチルベンズ[α]アントラセンを用いて膵臓癌モデルラットを作製し、FFX(5-FU点滴静注(50 mg/m2/hr、4時間)、CPT-11静脈内投与(180 mg/kg)、L-OHP静脈内投与(5 mg/kg))を週1回4週間連続投与後、経時的に血液を採取した。また、投与開始63日目まで白血球数、好中球数、リンパ球数および血小板数を測定した。各種血球数の最下点(Cnadir)を用いて、FFX療法4週間における骨髄抑制発現リスクとその重篤度を評価した。各血漿中薬物濃度および骨髄抑制に関与するパラメータについてPK/TDモデルの構築を検討した。なおこれらの解析にはPhoenix WinNonlin ver.6.3を用いた。
【結果・考察】投与開始21日目のSN-38のAUC0→∞は、1日目に比べて増加傾向にあった。FFX反復投与後、各血球数は投与開始28日目に最下点となり、血小板、白血球、リンパ球および好中球のCnadir値は、各々、28.7±13.7 104/μL、1.75±5.2、9.18±4.4、1.6±0.89 104/μLであった。投与開始63日目には、血小板数と好中球数は投与開始前の水準まで回復が認められたものの、白血球数とリンパ球数は回復していなかった。これらの血漿中薬物濃度と血球数のデータを用いてFFX反復投与時のPK/TDモデル構築を試みた結果、血球動態を記述するsemi-mechanistic PK/TDモデルを用いることで、各血球数の実測値と予測値はほぼ一致しており(r = 0.743~0.989)、良好なPK/TDパラメータを推定することが可能であった。
【結論】PK/TDモデル構築の有用性が認められたことから、FFX療法時の骨髄抑制軽減に関わる適切な用量調節の可能性が示唆され、レジメン完遂率およびや治療成績向上に貢献し得ることが期待された。