【目的】特定臨床研究における重大な不適合は、研究対象者の人権や安全性及び研究の進捗や結果の信頼性に影響を及ぼすものと定義される。本学では重大な不適合の発生予防を含む研究のリスク管理としてすべての特定臨床研究に対しCRC支援を実施している。本調査は今後のCRC支援において注力すべき点を検討するために、不適合報告書から不適合事例を抽出し不適合の発生頻度や重大と判断される事例を明らかにすることを目的とする。【方法】2018年4月から2022年5月までに本学で実施された特定臨床研究131課題における、2022年5月末までに作成され当センターで把握し得た不適合報告書67編を分析対象とし、(1)不適合とされた事項のカテゴリー別の頻度、(2)重大な不適合と“重大ではない”不適合と判断された事例の比較検討を実施した。不適合事例の要約は質的記述的研究の分析手法を参考に実施し、重大な不適合と”重大ではない“不適合の比較は対応分析を用いて分析した。【結果・考察】67編の報告書のうち、重大な不適合報告は25編、“重大ではない”不適合報告は42編であった。不適合事例は72コードが抽出され9つのカテゴリーに要約された。カテゴリー別の頻度は「不適切な同意取得」18.7%、「不適切な研究実施体制」2.7%、「不適切な利益相反管理」4.0%、「選択・除外基準の不遵守」13.3%、「不適切な試験薬の投与」26.7%、「不適切な研究データの取得」26.7%、「不適切な報告」2.7%、「その他」2.7%であった。対応分析の結果から、重大な不適合であるか否の判断に一貫性が乏しい不適合として、「不適切な同意取得」(重大と判断される割合:42.9%)、「不適切な試験薬の投与(同30.0%)」等が抽出された。また「不適切な研究データの取得」(同:10%)は、“重大ではない”と判断される傾向があった。【結論】重大な不適合は同意取得、選択除外基準判断、試験薬投与のプロセスで発生したものが全体の73.3%を占めており、このプロセスに注力したCRCの支援が事例発生予防に効果的である可能性が示唆された。重大な不適合か否かの判断は、「不適切な同意取得」、「不適切な試験薬の投与」で一貫性に乏しく、また試験結果に影響を及ぼす可能性が高い「不適切な研究データの取得」は軽視されやすい傾向があるなど、判断基準における課題が可視化された。今後事例などを共有し重大な不適合か否かの判断基準の標準化を図ることが必要であると考える。