【目的】東大病院Phase1ユニット(P1)は臨床試験専用病棟であり、インシデントの発生は試験逸脱に関わることから、独自のヒヤリ・ハット報告システムを運用し改善を重ねている。2019年には、タイムリーな情報共有と効果的な対応策検討のため、報告書のフォーマットおよび情報共有方法を変更した。本研究の目的は、変更後のシステムの有効性を評価し、今後の改善策を検討することである。【方法】対象は2020~2021年度にP1で発生したヒヤリ・ハットの報告書とその閲覧・確認履歴とし、調査項目は、ヒヤリ・ハット発見から報告/カンファレンス開催/情報配信/閲覧確認までの期間、ヒヤリ・ハットの原因/再発状況等とした。研究者2名でデータ収集後、チームで分析・検討した。【結果・考察】期間中のヒヤリ・ハット報告は89件、インシデント報告は7件、うち、試験逸脱は1件であった。発見から報告までの平均日数は3(0~26)日、カンファレンス開催までの日数は平均値23(4~72)日であった。変更後のシステムについて、情報配信までの平均日数は1.2(0~17)日、閲覧率は98.4 %、閲覧確認までの平均日数は3.2日であった。分析において、短期間に類似の事象が繰り返されている事例や、原因が読み取れず、効果的な対応策が検討されにくい報告書が多かった。ヒヤリ・ハット報告に比してインシデント報告や試験逸脱は少なく、P1では小さな事象でも共有する安全文化は根付いており、本システムはその一端を担っているといえる。変更後のシステムについて、共有サーバーの使用はヒヤリ・ハット発見後の情報配信や閲覧確認までの期間が短いことから、タイムリーな情報共有に有効であった。一方、報告書はフォーマット変更により「原因」が記載されたが、根本原因が読み取れる情報は不足しており、更に発見からカンファレンス開催の期間が長いことを考慮すると、効果的対応策の検討には繋がりにくい可能性がある。リスクマネジメントにおいて、ヒヤリ・ハット発生のプロセスを洗い出して原因に対処することや、過去の事例を集積してリスクにアプローチすることが求められる。【結論】今後は、発生後速やかに小カンファレンスにて根本原因を明らかにすること、また、事例をデータベースに集積して定期的にフィードバックすることで、リスク管理の質向上に繋げていきたい。