【目的】
近年、臨床研究のモニタリングではRisk Based Monitoring(以下、RBM)が推奨されており、全ての項目に対して画一的に確認するのではなく重点的なモニタリングが求められている。一般的にRBMでは各リスクに対して重要度、発生頻度、検出可能性で点数をつけるが、発生頻度については各担当者の経験的な感覚でしか論じられていないのが現状である。そこで実際にどのようなプロセスでエラーが多く発生しているかを検討した。
【方法】
信州大学医学部附属病院臨床研究支援センターでモニタリング実施支援を行った研究のうち、単施設で実施した参加被験者数51症例の介入研究(以下、本研究)を対象とした。本研究では全症例、全観察項目に対してモニタリングを実施し、挙げられたクエリを観察項目およびプロセスで分類して件数を集計した。さらにエラー発生頻度の高いプロセスに対してその要因を検討した。
【結果・考察】
モニタリングの実施により挙げられたクエリを観察項目およびプロセスで分類したところ、エラー発生数が多い順に、併用薬のEDC入力16件、画像検査の評価手順15件、血圧のカルテ記載10件、臨床検査のオーダー8件となった。これらは三種の要因に分類されると考えた。(1)併用薬はEDCの入力者が必要な薬剤を取捨選択し、薬剤名称や単位を変換して入力する必要があり、複雑な判断が必要なプロセスであることがエラー発生の要因と考えられた。(2)画像検査は研究開始時点で評価手順が定まっておらず、また臨床検査値ではオーダーテンプレートに不備があり欠測が多発していた。これらは初期のエラーがその後に大きく影響したことが要因と考えられる。(3)血圧は測定結果の記載忘れが多発していたが、これは特定の入力フォームが無く医師がカルテの経過記録に直接記載する手順だったことが要因だった。
以上より次のようなプロセスでエラー発生頻度が高くなると考えた。(1)作業者による複雑な判断を必要とするもの。(2)手順やテンプレートを作成する等、1つのエラーが多数のエラーにつながるもの。(3)カルテへ自由に記載する等、特定のフォームがない観察項目の実施プロセス。
【結論】
RBMでは上記のようなエラー要因を持つ臨床研究実施プロセスを特定し、当該プロセスにおけるリスクを評価する必要がある。また予防措置としてこれらのプロセスをできる限り避けるように事前に計画することも重要である。