【目的】治験薬の管理環境はその品質を確保するために厳格であり、温度逸脱時は煩雑な対応が求められることから、治験実施医療機関では厳重な保管環境を構築する必要がある。CubixxCT(以下、本機)は、温度データ自動サーバ送信、二重扉等開閉時の温度変化の少ない設計、24時間365日中央監視などを備えたInternet of Things(IoT)保管庫であるが、本機が山口大学医学部附属病院(以下、当院)の冷所治験薬の保管運用に適応できるかを評価した。併せて冷所治験薬保管に求める環境に関し、治験依頼者にニーズ調査を行ったので報告する。
【方法】設定温度3.5℃、監視温度2.4-5.9℃、測定間隔1分間で本機を運用した。運用期間中の本機校正証明有効期間(2021年6月~2022年4月)における温度・開閉データを、サーバからWebでExcelデータにより収集し分析した。冷所治験薬の保管環境に関するニーズ調査は、2021年11月時点において当院で治験薬を冷所保管している治験依頼者15企業に対し、アンケート形式にて実施した。
【結果・考察】分析対象期間において、保管治験総数8件、総開閉回数237回、最高温度4.5℃、最低温度2.6℃、平均温度3.20℃であり、温度逸脱アラートはなかった。開閉回数最高日(8回)も大きな温度変動はなく、更に開閉頻度3群の平均温度を比較したが、無開閉日3.20℃、低頻度開閉日(1-4回/日)3.18℃、高頻度開閉日(5-8回/日)3.37℃であり、高頻度開閉日でわずかに高い傾向が見られたが、本機は扉の開閉に対して安定した温度を維持できていた。なお、最高温度は全て霜取り機能作動中の夜間に記録されており、最低温度は持続的な温度低下を記録した期間が確認されたが許容範囲であった。ニーズ調査は12企業から回答を得た。治験依頼者が冷所保管に必要と考えるものとして「温度計の校正証明書」92%、「温度逸脱が発生しにくい構造」83%、「冷蔵庫のメンテナンス記録」75%、と高く、「24時間365日中央監視」等の必要度は低かった。なお必要度の高い項目への費用加算は積極的な検討対象ではなかったが、必要度の低い項目では完全な否定意見は半数以下であった。
【結論】CubixxCTは扉の開閉による温度変動に強く、当院の冷所治験薬の保管に対し十分に適応を示した。冷所治験薬保管環境については、温度計校正証明書等の治験依頼者が求める必須的環境よりも、付加的環境に費用加算の交渉の余地がある。