【目的】2019年のGCPガイダンスの改定で、QMSの構築や実装が重要視されており、品質を確保するためにプロセス管理が必要となっている。その一例として、治験実施計画書からの逸脱(以下、逸脱)への対応が挙げられる。広島大学病院(以下、当院)では、逸脱が発生した場合、医師とCRCが相談の上、当院書式の「治験実施計画書からの逸脱(緊急の危険回避の場合を除く)に関する報告書」(以下、逸脱報告書)に経緯、対応、再発防止策などを記載し、IRBに報告し再発防止に取り組んでいる。逸脱への対応は、施設側、依頼者側の両者で取り組む必要があるため、今回依頼者の逸脱に焦点を当て、当院における依頼者側に起因する逸脱(以下、依頼者側の逸脱)について調査し、逸脱防止について検討した。【方法】当院では、依頼者側の逸脱は、依頼者側に対応や再発防止策を記載したレターの作成を依頼し、逸脱報告書に添付しIRBに報告している。2018年度から2022年度6月までにIRBに報告された逸脱の発生件数を集計し、依頼者側の逸脱について逸脱報告書やレターから発生件数、逸脱の内容などを集計した。【結果・考察】調査期間中にIRBに報告された逸脱の全394件のうち、依頼者側の逸脱は28件(7 %)であり、年度別では、2018年度は112件中1件(0.9%)、2019年度は84件中2件(2%)、2020年度は88件中9件(10%)、2021年度は87件中8件(9%)、2022年度(4~6月)は23件中8件(35%)で、2020年度から件数も全体に占める割合も増加していた。これは、2019年のGCPガイダンスの改定を受けて、依頼者側が積極的に逸脱の報告に取り組んでいる為であると推測される。28件の逸脱のうち、治験実施計画書や手順書等の内容の不備が6件、手順書等の誤認識が16件、資料の送付忘れのようなケアレスミスが5件、中央検査機関の独断での代替検査キット搬入による採血量増の逸脱が1件であった。治験実施計画書や手順書の内容の不備は、重大な逸脱につながる恐れがあり、依頼者側はこれらを作成する時点で抜けやわかりにくい表現がないかなど、作成プロセス管理を充実させることが重要と考えられた。また、手順書の誤認識やケアレスミスに対応するため、CRAや中央検査機関の教育やチェック体制の充実が必要と考えられた。【結論】依頼者側の逸脱防止策として、プロセス管理・教育・チェック体制の充実が必要で、本データが逸脱防止を検討するにあたって参考となることを期待する。