【目的】がん患者が補完代替療法として健康食品を使用している例は少なくない。一方で近年、健康食品摂取により、代表的な薬物代謝酵素であるチトクロームP450 3A (CYP3A)が阻害され、併用薬の有害作用発現の一因となり得ることが懸念されている。抗がん剤は重篤な副作用が問題となることが多く、健康食品併用の安全性を検討することは重要である。本研究では、がん患者が利用する可能性がある健康食品のCYP3A活性に対する阻害作用を検討し、抗がん剤と併用時の薬物相互作用の可能性について検討することを目的とした。
【方法】がん患者による使用が想定される16種の健康食品を選択し、検討対象とした。酵素源としてヒト肝ミクロソーム画分を用い、CYP3Aを介する代謝の指標にはmidazolam 1’-hydroxylation (MDZ 1’-OH)活性を用いた。各健康食品抽出液のMDZ 1’-OH活性に対する阻害効果は、コントロール活性に対する割合で評価した。また、これら健康食品により、重篤な薬物相互作用の原因として知られている不可逆的なmechanism-based inhibitionが生じる可能性を明らかにするため、時間およびNADPH依存的阻害について検討した。
【結果・考察】スピルリナ、タヒボ、チャーガ、モリンガはMDZ 1’-OH活性を濃度依存的に阻害した。これら健康食品の本活性に対するIC50値は小腸内最高濃度の推定値と同程度であったことから、少なくとも小腸でCYP3A阻害を介する薬物相互作用が生じる可能性が示された。一方、本研究で用いた健康食品はいずれもCYP3A活性に対し時間およびNADPH依存的な阻害を示さなかった。このことから、これら健康食品はCYP3Aに対しmechanism-based inhibitionを起こす可能性は低いことが示された。
【結論】がん患者による使用が想定される健康食品のうち、スピルリナ、タヒボ、チャーガ、モリンガはin vitro実験系でCYP3A活性を阻害した。このことから、本酵素で代謝される抗がん剤とこれら健康食品併用時の薬物相互作用について、さらに検討する必要性が示された。