【目的】若年がん患者が妊孕性温存療法を希望される際、がん治療が性腺に与えうる影響の強さや卵巣予備能、治療開始までの猶予時間により施行すべきか検討する。イマチニブ(Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害薬)は慢性骨髄性白血病の治療薬であるが、卵巣毒性が不明で長期投与を要することから、妊孕性温存実施について意見の分かれる薬剤である。そのため、我々は本薬剤の卵巣毒性を検証した。【方法】In vitro studyとして、11日齢ICRマウス卵巣を8日間培養した。培養液中のイマチニブ濃度は薬物血中濃度(ヒト)から、コントロール群、通常濃度群(Im: 5μg/ml)、高濃度群(ImH: 25μg/ml)とした。また、各培養液中で6時間の顆粒膜細胞培養を行った。In vivo studyとして、8週齢マウスに14日間の経口投与後、体外受精と卵胞数カウントを行った。なお、薬剤投与量はヒト等価用量(HED)から、コントロール群、通常量群(Im群: HED dose)、高用量群(ImH群: HED dose×5)とした。【結果】卵巣培養の結果、Im群では二次卵胞数が減少した(p<0.05)。しかしFSHR, CYP19aの遺伝子発現に有意差を認めなかった。ImH群では、培養液中E2値の低下、原始卵胞・二次卵胞の減少、FSHR, CYP19a, c-kit, PDGFR-α,βの発現低下を認めた(p<0.05)。しかし、顆粒膜細胞培養ではFSHR, CYP19aの発現に有意差がなかった。体外受精の結果、Im群では、採卵数が減少した(p<0.05)。さらに経口投与後の卵胞数カウントでは、原始卵胞数は減少せず、初期卵胞数低下を認めた(p<0.05)【考察】イマチニブは、慢性骨髄性白血病患者で発現するBcr-Abl融合遺伝子以外に、c-kit,PDGFR-α,βも阻害し、卵巣では顆粒膜細胞(特に初期卵胞)に発現している。今回の実験結果でも、イマチニブがc-kitやPDGFR-α,βを阻害した結果、顆粒膜細胞の増殖が抑制され卵巣培養によりE2濃度上昇の抑制、初期卵胞数低下を来たしたと考えられる。体外受精で採卵数が減少したが、卵胞数カウントにおいて原始卵胞数低下を来たしていないため、一時的な影響とも考えられる。しかし、イマチニブは臨床的に長期投与する薬剤であり、今後長期投与による影響を検証予定である。