【目的】Poly (ADP-ribose) polymerase(PARP)阻害薬は、卵巣癌や乳癌の治療薬として承認された以降、前立腺癌や膵癌に対する治療薬として徐々に治療適応が拡大している薬剤である。さらにPARP阻害薬は、抗腫瘍効果のほか抗血管新生効果や抗炎症効果なども有するため、様々ながん種や自己免疫疾患などの長期生存可能な症例への治療適応拡大が期待されている。しかし、本剤の性腺毒性に関する知見は極めて乏しい。そのため、本研究ではPARP阻害薬(オラパリブ)の卵巣毒性を検証した。【方法】卵巣機能を司る各細胞および卵胞への影響を評価するため、オラパリブ添加培養液(0, 10, 100 μg/ml)にて10日齢マウス卵巣を8日間、12週齢マウス顆粒膜細胞を6時間体外培養し、real time qPCR (CYP19a, FSHR, GDF9, VEGF, VEGFR, CD31)、培養液中のホルモン値測定、組織学的評価を行った。また、21日齢マウスにオラパリブ300mg/kgを2週間経口投与し、同様の評価ならびに体外受精成績を検証した。なお、本研究は動物実験委員会の承認を得ている。【結果】real time qPCRでは、VEGFおよびCD31遺伝子発現の変化は認められなかったが、オラパリブ群においてCYP19a、FSHR、GDF9およびVEGFR遺伝子の発現が低下した(p<0.05)。また、エストロゲン産生量はコントロール群では経時的に上昇したが、オラパリブ群では上昇を認めず、顆粒膜細胞の形態異常およびKi67の発現低下を認め、さらに各発育段階の卵胞数減少と閉鎖卵胞数増加が認められた。体外受精の結果、オラパリブ投与群において卵子成熟率と胚盤胞到達率に変化はなかったが、採卵数減少(3.8±3.0個)ならびに受精率低下(72.9±19.6%)を認めた(p<0.05)。次に3週間のインターバルをおいて体外受精を実施したところ、採卵数は低下傾向にあったが(p=0.09)、受精率はコントロールと同程度まで改善した(p=0.56)。【結論】本研究結果から、PARP阻害薬は顆粒膜細胞および各発育段階の卵胞数へ影響を及ぼすことから、卵巣毒性を有する抗がん薬となる可能性が示唆された。さらに外挿性の検証が必要であるが、若年女性にPARP阻害薬を使用する場合には、妊孕性温存療法の提案が必要となる可能性がある。