【目的】オキサリプラチン(L-OHP)ベース化学療法において、末梢神経障害は高頻度に発現することに加えて用量規制毒性であることから患者のQOLを損なう要因となり、適切に癌治療を遂行するための支持療法が求められている。また、その発現メカニズムには後根神経節(DRG)に対する障害に起因することが報告されているが、詳細は不明である。一方、生体の概日リズムを活用した時間薬理学が癌化学療法において有効であることが提案されている。そこで、本研究では末梢神経障害に関与するL-OHPのDRGへの移行性と概日リズムとの関連性について、投与時刻の変化によるSOX療法時の抗癌剤体内動態からラットを用いて評価したので報告する。
【方法】Wistar系雄性ラット(約10週齢)をS-1+L-OHPの投与時刻(1、7、13、19時)に応じて4群に分類し、S-1(テガフール[FT]: 2 mg/kg)を経口投与した後に、L-OHP(5 mg/kg)を静脈内投与した。薬物投与後、経時的に頸静脈より採血した。また、投与2時間後にDRGを単離した。血漿中のFT、5-fluorouracil(5-FU)、白金(Pt)濃度及びDRG中のPt濃度をLC-MS/MSにて測定した。得られた血漿中濃度推移について薬物動態速度論的解析を行い、投与時刻と体内動態との関連性について検討した。
【結果・考察】1、7、13、19時投与後の5-FUのAUC0→∞は、各々、6.0±1.0、3.4±1.6、4.3±2.0、4.8±2.5 μg*h/mLであり、7時投与群の値が他の3群と比べて低い傾向にあった。また、PtのAUC0→∞は、各々、2.5±0.5、2.2±0.4、2.4±0.6、4.1±1.7 μg*h/mLであり、19時投与群に対して、7時投与群の値は有意に低かった。また、DRG中Pt濃度は、7時投与群で0.22±0.17 μg/gを示し、他の3群と比較して約1.2~2.0倍高かった。これらの結果から、S-1+L-OHP投与後のPtの血漿中からDRGへの移行には概日リズムが存在する可能性が示唆された。
【結論】SOX療法施行時の投薬タイミングを工夫することで、PtのDRG中への移行を制御し、末梢神経障害抑制に寄与し得る可能性が示唆された。今後、モデリング&シミュレーションによる薬物動態の概日リズムの把握を試みることで、具体的な投与時刻の提案に繋げたいと考えている。