子どもに薬物治療を行う際には、年齢に応じて用法・用量、適切な有効性の評価、副作用等に配慮する必要がある。体重や身長から一律に投与量を規定することは出来ないし、小児に特有な副作用が出ることもある。喘息のように年少小児で成人と同じ有効性評価指標を用いることが出来ないこともある。疾患の中には、成人と小児で病型や進行の仕方が異なるものもあるし、特に希少難病では、疾患の全体像の把握が困難なことも多い。小児臨床薬理学(発達薬理学)は小児の薬物治療に科学的根拠を与えることを目指す学問であり、新生児から思春期までの幅広い年齢層における「薬物治療最適化のための研究」及び「その科学的結果を活用した薬物治療実践」のための学問である。小児薬物治療に係わるあらゆる専門領域の医師・薬剤師や薬学研究者にとって必須の学問と言っても過言ではない。成長・発達にともなう生理学的変化がもっとも顕著に現れる小児では、その薬物動態や薬力学について、まだ詳細が解明されていないことも多く、新しい研究を開拓できる可能性も多い分野でもある。年齢に応じた剤形への配慮も必要であるが、それについての国際的な知見も十分に集積されていない。また、成人領域では詳しく研究されている薬理遺伝学的多型が発達の過程にある小児にどう影響しているかなども、まだ不明な点が多い。小児疾患には希少疾病が多く、その自然歴すら十分に解明されていないものもある。新生児領域では検査値などの基準値の標準化なども進んでいない。小児における臨床試験・治験の方法論に詳しい人材も不足しており、小児医薬品開発・開発薬事の専門家も限られている。小児の医薬品評価の方法論は、臨床評価の方法論と表裏一体であるが、小児の特殊性を理解していなくては、適切な評価を行うことはできない。小児臨床薬理学はこのような幅広い領域をカバーする専門領域であり、解明されていないことも多いだけに、取り組みがいの有る領域であるともいえよう。本シンポジウムでは、医師・薬剤師・製剤技術者などの立場から、小児臨床薬理学でどのような研究・臨床が行えるのか、特に今回は、病院薬剤師の活動、小児血液腫瘍・小児感染症領域での活動、小児遺伝薬理学研究、小児剤形検討について、その実際の取り組みの様子を紹介いただき、小児臨床薬理学の必要性・魅力について語って頂きたいと考えている。