私たち薬剤師は,日常診療の中で医師から「薬の使い方」の相談をよく受ける.この相談には適応の有無にかかわらず,適切な用法用量,有効性,安全性,実現可能な投与方法など実に様々な問いが含まれており,それらをふまえて目前の患者にとって「最適な薬物療法」を提供すること,つまり薬物療法を「個別化」することが求められている.薬物療法の「個別化」には科学的根拠となる情報を目前の患者へ適応させていくプロセスを経るが,小児領域ではその科学的根拠となる情報が少ない.未だ多くの医薬品の添付文書には「小児等を対象とした有効性及び安全性を指標とした臨床試験は実施していない」と記載され,小児もしくは年齢に応じた用法用量は記載されていない.十分な情報がないからこそ,これまでの経験や集積した情報を適切かつ丁寧に整理・解析し,科学的に信頼できるエビデンスを創出することが重要であり,こうした取り組みは未来の小児薬物療法に還元される.「薬物療法の個別化」と「科学的に信頼できるエビデンスの創出」は臨床薬理学が重視していることであり,これらを実践するための知識とスキルは小児の薬物療法に携わる上で必要不可欠である.
当センターでは,全病棟に薬剤師を配置しており,常に患者の側にいるからこそ薬物療法における様々な「どうしよう?」「困った!」を医師や看護師と同じ温度で実感している.小児の中でも特に超早産児,腎や肝疾患時,透析時などの特殊病態下ではPK/PD等に関する科学的根拠が極めて乏しいため,限られた情報を詳細に検討した上で論理的な考察を行い,用法用量を決定せざるを得ないケースは少なくない.私たち薬剤師は,医師の診断および治療方針に沿って薬学的知識を基に最適な薬物療法を検討するが,その思考を医師と共有しながらディスカッションを重ねることが目前の患者にとって安全で効果的な「薬の使い方」につながると考えている.
本シンポジウムでは,小児の薬物療法において演者が日々実践している臨床薬理学的アプローチと日常診療の中で生じた疑問の解決に向けて取り組んだ新生児を対象とした臨床薬理研究について紹介する.臨床現場に立つ薬剤師に何が求められているのか,そして何ができるのか,何をすべきなのかを考えていきたい.さらにこれらの内容を通して小児臨床薬理学の発展及び小児薬物療法の充実につながるそれぞれの専門性を活かした連携についても議論したい.