造血幹細胞移植に先行して実施される移植前処置では,患者の免疫を適切に抑制し、移植片の拒絶を予防すること(免疫抑制効果),患者の体内に残存する腫瘍細胞をできるだけ減少させること(抗腫瘍効果),患者の骨髄内において移植片の生着を得るために,患者自身の造血機能を廃絶させることの3点が主な目的である.移植前処置で用いられる抗腫瘍薬の投与量は非血液毒性によって規定される最大耐用量に近いため,暴露量が多い場合,移植前処置関連の重篤な合併症を発症することがある.一方で暴露量が少ない場合,上記目的が達成できず生着不全,再発のリスクが高くなる.成長発達過程にある小児では抗腫瘍薬の体内動態の個体差が特に大きく,移植成績に影響を与えることから,薬物動態学理論を基にした抗腫瘍薬の投与量設計は重要と考えられる.近年,前処置に用いられる抗腫瘍薬やGVHD予防で用いられる抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリンのTDMの研究が報告されている.また,国内の小児移植実施施設ではブスルファンを使用する際に「AUCを指標とした用量設定」が行われている.本シンポジウムではブスルファンの用量設定の事例と抗腫瘍薬のTDMの知見を紹介する