元々演者が小児臨床薬理学に取り組む契機となったのは、シカゴ大学小児集中治療部でのフェローとして米国の臨床現場で診療をする中でのクリニカルクエスチョンであった薬物反応の個人差をより理解するために、シカゴ大学医療センターでのファーマコゲノミクス情報を臨床応用する研究グループに参画し、ファーマコゲノミクスをどう実際の薬物治療に役立てていくかということを実体験したことである。その後、研究段階ではあるものの、欧米でのファーマコゲノミクスの実臨床への応用は着実に進み、その施設には小児病院も多数含まれている。将来的には日本でも確実にその流れは来るであろうし、現在日本においてもいくつかのアカデミックな施設では積極的にそのための準備は進められ、実現のための課題である日本の臨床現場におけるファーマコゲノミクスの認知度の問題、日本人に特有のアリルに焦点をおいたエビデンスの蓄積、小児を対象としたファーマコゲノミクス研究の推進など、私の所属する理化学研究所生命医科学研究センター・ファーマコゲノミクス研究チームでも様々な取り組みを行っている。小児のファーマコゲノミクス研究を行う最大の魅力は、将来的に小児科臨床をより良くする可能性を秘めていることに尽きる。しかしながら、小児を対象とした研究ならではの困難もあり、たとえば患者リクルートのハードルの高さ、限られた集団からの十分な統計学的検出力を得られるほどのサンプルサイズの確保などが挙げられる。しかしこれらは、できるだけ多くの関係者とうまく連携を行うことで解決に導ける可能性があり、本シンポジウムでは、そのために必要と考えられる内容も含めて述べていきたい。