2003年に薬事法が改正され「医師主導治験」という世界的に見ても特異な制度が始まった。製薬会社等が開発・治験を実施してくれない採算性の低い製品・適応に対して、医師が自ら薬事承認のための臨床試験を計画・設計・実施する。最終的にそのデータを製薬会社等が承認申請に用いるという本質的に捻れた仕組みを持ち、元々はドラッグラグ、デバイスラグ等を解消する手段の一つとして始められた。昨今は企業開発品の初期治験でさえアカデミアに任せ、ある程度医師主導治験で成績が出るまで様子見をするという企業が出て来ているのも事実である。7月時点のjRCTで実施中の未承認薬医師主導治験が43試験ある。うち15件(35%)は研究資金等の提供組織として製薬企業も記載されている。適応外薬も同じく43試験あり、21件(49%)は製薬企業も記載されている。AMED公募において「なぜ企業治験ではないのか?」としばしば問題となるが、市場性が低い製品の臨床開発をどこが負担して実施すべきかについて明確な基準が無く、未だコンセンサスは得られていない。 
リポジショニングでよく見受ける特許切れ成分の新作用機序が臨床ニーズを満たす場合、臨床現場で発したneeds pull開発として医療従事者の熱意で推進するものの、必ずしも市場が要求したmarket pullではないことから来る弊害もある。研究費を獲得して医師主導治験を実施し有効性を証明して、先発薬を適応拡大できたとしても、沢山ある後発薬と差別化が難しい。用途特許等で法的に保護する事は可能であるが、後発薬の適応外使用を止める実効性には乏しい。従って採算が取れる目処が無いなどの理由により企業が承認申請を請け負わない場合がある。国内であまねく使用できるようにするという医師主導治験の本来目的は出口で頓挫してしまう。米国では保険適用を伴った臨床使用が薬事承認範囲を超えてcompendiaという形で広く認められているため、適応拡大に限れば我が国の保険行政特有の問題と言える。 
制度開始から20年近くたち、ARO初めとして現場は医師主導治験に慣れてきたが上記のような弊害も目立つ。アカデミアも企業もこの特有な制度を今後どのように活用して行くのか、規制当局とともに再考する時期に来ている。