近年,複雑化するルールの下で安全に臨床研究を遂行するため,臨床研究支援組織(Academic Research Organization: ARO)が全国の大学病院や基幹病院に相次いで設置されている.AROには,事務職だけでなく看護師,薬剤師,検査技師などの医療職に加えて医師が所属する施設が増えている.ARO所属医師は自身の医師としての専門性・診療経験や臨床研究の経験をベースに,「縁の下の力持ち」として施設全体の臨床研究の支援や適正実施へのサポートを行い,ARO内・施設内で重要な役割を果たしている.一方,ARO医師の業務内容や役割は施設ごとに異なると考えられるが,施設間で業務内容の紹介や情報交換を行う機会は多くはなく,トレーニングやキャリアパスも施設ごとに異なる.
 横浜市立大学附属病院の次世代臨床研究センター(Y-NEXT)には現在内科(腎臓高血圧,消化器,循環器),小児科,脳神経外科出身の専従医師が診療科からの時限付き配属という形で合計7名在籍している.Y-NEXT医師は他職種と連携を取り,下記の業務を中心に横浜市立大学の附属2病院(当院ならびに横浜市立大学附属市民総合医療センター)の臨床研究を幅広く支援している.
・介入研究の立案,デザインの支援.
・Y-NEXTにおける臨床研究支援体制の構築.
・臨床研究セミナーの企画・運営.
・倫理委員会の運営補助.
・倫理審査に係る医学的助言.
・重大な不適合事案に対する対応.
・産学官連携,橋渡し研究に係る戦略相談.
・附属2病院ならびに神奈川県内の臨床研究ネットワーク病院との連携.
 本講演では,当院のARO医師の業務内容について紹介し,ARO医師として大学全体の臨床研究の下支えをする業務の魅力ややりがい,自身のスキルアップの可能性を述べるとともに,トレーニングシステムの未整備,診療科との業務バランスの難しさ,臨床医としてのキャリアの停滞,ARO配属終了後のキャリアパスの未整備といったARO医師が抱える課題について述べる.
また,統一化されていないARO医師のトレーニングやキャリアパスについて学会としてできうる下記の3つの取り組みを提案したい.
1.ARO医師の業務内容に関する啓蒙.
2.ARO医師がコミュニケーションを取るプラットフォームの作成.
3.統一したトレーニングシステムの構築.