近年、免疫チェックポイント阻害薬の優れた効果が多数示され、より多くのがん種や患者において投与されるようになった。一方、過剰な免疫反応に基づく免疫学的有害事象(irAE)に注意が必要である。細胞障害性抗がん薬に比べて重篤な有害事象の頻度は低いものの、様々な組織で発現する可能性があり、ときに発見の遅れが致死的になることがある。さらに、これら免疫チェックポイント阻害薬の単独投与だけでなく、細胞障害性抗がん薬や分子標的薬との併用療法も行われており、治療は高度化・複雑化している。この様な治療を、より安全かつ効果的に実施するには、患者と家族を中心として、各専門診療科および職種が各々の高い専門性を十分に発揮し、互いに連携し協働することが重要である。2021年9月の厚労省医政局長通知「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」には、薬剤師が積極的に取り組むべき業務の具体例として、事前に取り決めたプロトコールに基づく薬学的管理が示されている。
神戸市立医療センター中央市民病院(当院)では、免疫チェックポイント阻害薬を安全に投与するための体制づくりを進めてきた。治療開始にあたっては、当院で独自に作成したパンフレットを用いてirAEについて説明し、患者自身が早期に症状を把握できるようダイアリーに症状を記載してもらう。治療開始後も継続的に患者の体調を聞き取り、副作用の重篤度をCTCAEに基づき電子カルテに記載して、医師を含む多職種と情報共有する。一方、内分泌機能異常など、検査値異常により把握できるirAEも多い。これらの早期発見と重篤化回避のため、電子カルテのオーダーテンプレートを活用し、必要な検査が漏れていた場合には薬剤師から医師に追加オーダーを依頼していたが、ときに検査漏れが生じることがあった。そこで、事前に定めた院内プロトコールに基づいて薬剤師が検査オーダーを補完するPBPM(protocol based pharmacotherapy management)を開始した。肺がん患者を対象とした検討では、医師による入力が漏れた検査項目について薬剤師がオーダー入力することで正確な検査実施が可能となり、有害事象の早期発見に寄与している。
本シンポジウムでは、これらの取り組みの背景と実際を紹介し、チーム医療アプローチによるirAE対策のさらなる充実に向けて議論したい。