臨床薬理学とは何か、必要なのか? 誰しもが一度はぶつかる質問ではないだろうか。高度な専門医師が‘薬’のことも十分に勉強すれば対応可能ではないのか。しかしながら、科学の進歩に伴って明らかとなってきた多くの知識を単独で学習し実践することは困難であり、薬物治療を起点とした臨床薬理学が発生してきたというのは自然の理であろう。臨床薬理学は、1.臨床で起こる薬に関係する事柄に対して科学的な解釈を試みる、2.医薬品開発/育薬における薬効評価と安全性を薬理/薬物動態の視点で評価・伝達する学問と認識しており、ここでは2.により注目して、私自身が長らく医薬品開発に携わって来た経験に基づいた臨床薬理の魅力と課題、最後に認定薬剤師に触れていきたい。
 医薬品開発は創成から非臨床、臨床、市販後と長い年月をかけて開発がなされるが、臨床薬理はその全てに少なからず関わっている。承認申請・販売は大きいマイルストーンの一つであり、CTD 271/272、添付文書やIF等にどのようなデータや文章で表現するのかは大変ではあるが醍醐味のある業務であり、適切に情報を伝えるための重要な役割を担っている。また必要なデータを効率的に集めて分析、提案や交渉に繋げる能力も必要となってくるが、近年は臨床薬理領域自体も広範囲、且つ深化しており、全てを一人で対応することは不可能になってきている。
日本臨床薬理学会のHPには認定薬剤師に求められる資質と貢献が示されており、簡略にはI.臨床薬理学領域での広範な知識と技能を育てる、II.学術活動、教育、研究活動、III.医薬品の適正使用、IV.IRBとなっている。製薬企業にも納得のいく項目であり、まず基礎となる広範囲な知識を漏れなく身に着けるために認定薬剤師資格取得を目標とするのは有用ではないかと思う。また、薬剤師資格が必要なのかという疑問もあがるが、‘薬’全般の基礎知識を持っていることを裏付けるものであり、産官学の各所属の垣根を越えて認定薬剤師としての活躍が期待される。本活動支援のために日本臨床薬理学会から、例えば薬の適正使用や個別化医療の可能性などについて各関係者とも協力して世界に発信出来るための定期的なフォーラムが有っても良いのでないかと考える。
臨床薬理学の展望、臨床薬理 42 (1), 1-4, 2011