【目的】新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染拡大に伴い,市中感染状況や抗体保有率の把握を目的に,世界中で大規模抗体検査が実施されている.しかし,抗体検査そのものについては臨床的意義が未確立であることの他,各抗体検査キットの分析性能の違いに対する懸念が強く示されている.本研究では,国内で開発中あるいは既に市販されているSARS-CoV-2抗体検査キットの性能を比較評価する目的で,共通試料を用いた一斉性能評価試験を実施した. 【方法】共通試料として,SARS-CoV-2感染症患者から採取した血清34検体を混合した「標準品」を調製し,代表的なELISAキットを使って十分な抗体価のあることを確認した.イムノクロマトキット16種,ELISA(酵素免疫測定法)キット11種,およびECL(電気化学発光法)等を用いた自動分析装置用キット30種の計57種類を対象とし,測定は原則として各キットの製造販売機関において実施した.「標準品」を希釈用血清で段階希釈した試料を測定し,陽性判定基準と交差する希釈倍数(陽性となる抗体価)を求める用量反応性の評価と,繰り返し測定した時の陽性となる抗体価の精度の評価を行った.【結果・考察】用量反応性の評価から,各抗体検査キットで陽性判定となる「標準品」の最大希釈倍数が異なり,キットにより陽性判定基準が異なることが明らかになった.一部のIgMを検出するキットでは,本研究で用いた最高濃度の試料でも陽性判定基準を上回らず,「標準品」で評価する限りにおいては検出感度が十分ではないと考えられた.一方,精度の評価においては,評価対象とした全ての抗体検査キットのうち抗体価のバラツキの大きなキットはなく,測定の精度に問題のあるキットはないと考えられた.検査結果に影響する要因として,各キットにおけるレスポンスの違い(要因としては,用いている抗原や検出試薬の違い),及び,陽性判定基準の設定方法(要因としては,基準設定に用いた臨床検体の違い)が影響していると考えられた.【結論】国内で開発中あるいは既に市販されているSARS-CoV-2抗体検査キットは,概ね,SARS-CoV-2に対する抗体を検出できることが明らかとなった.ただし,キットにより検出しようとする抗体や検出の原理が異なっていることに留意して,目的に合うキットを用いることが重要であると考えられた.