今、地域で安心して医療を受けられる体制づくりの強化等が期待されている。 近年の地域医療を取り巻く情勢は、医療の複雑化、国民の少子高齢化の進展に加え、医療そのものの質が問われるようになってきた。 急速な高齢化と医療の高度化に対応するためには、取組の質を更に高め、幅広く実践していくことが求められる。外来から入院、在宅へ必要な医療を切れ目なく提供できる体制を地域全体で整備する必要があるが、多くの医療職が関わるため、治療の基本方針の明確化、円滑なコミュニケーション、患者情報の共有など、多くの課題を抱えている。また、患者一人一人の病状にも違いがあるため、身体的苦痛と同時に心理的、社会的、精神的な問題を抱えるケースが少なくない。例えば、病気の再発に対する不安、薬の副作用に対する不安、退院後の食生活に対する不安など、抱える問題は様々である。 多職種連携とは、言い換えれば異なる専門性を持った多くの職種が関わることである。そこで求められるのは、共通の目的意識を持ち、各専門職がそれぞれの能力を発揮し、他者の持つ機能と調整しながら連携し、患者に総合的に効率よくきめ細かい良質な医療を受けてもらうことである。そのためには外来から入院、在宅とステージが変わっても、科学的根拠に基づいた医療を実践し、臨床薬理を基盤としたチーム医療を病院の中だけでなく、住み慣れた地域に戻った後も継続して提供していく必要がある。 臨床薬理学は、患者の臨床ケアを向上させるために、患者個人の個別化医療と医薬品の合理的な使用を実現することに貢献している。地域医療の実践に向けて臨床薬理学の知識の重要性を事例から検証することは大変意義深いことと思われる。 使用する薬の薬理作用を理解し、副作用にも配慮して使用する努力はしているが、その知識は不十分と言わざるを得ない。その上、多剤服用者の増加による併用薬の相互作用、次々に認可される新薬など必要な知識はますます増えている。これらの現状に対応していくためには、基本的な薬理学知識と最新の薬に対する客観的で正確な知識を持たなければならない。しかし、その修得は極めて困難であり、この状況を補うために、多職種連携による協動が不可欠である。 地域医療の実践に役立つ臨床薬理学の研究および教育を展開することが臨床薬理学研究者の腕の見せ所と確信している。