近年、臨床試験および臨床研究における品質がいっそう重視されるようになっている。監査は試験や研究に対して体系的に独立性をもって検証することにより、その品質を評価する活動であるが、特に臨床研究では資金や人材の不足を理由に実施されないケースがあるとされてきた。また、2020年に始まった新型コロナウイルス感染症拡大は、臨床試験・臨床研究そのものの実施・継続に大きな影響を及ぼし、監査においてもその実施に支障をきたしている事例が少なくない。このような状況のなかで、従来とは異なる方法で監査活動の継続を図る取り組みが進められており、その1つがリモート法で行う監査モデルの構築である。これまで企業治験のモニタリング業務等で試みられてきたデータや書類へのリモートアクセスの経験を踏まえ、さらに監査の実施者および被監査者の意見を取り入れて構築された戦略的なリモート監査モデルは、 "書類の確認"、"データの確認"、"施設ツアー"および"インタビュー"といった監査の主要要素のすべてにフルスケールで適用できるものである。実証実験では、従来法である施設訪問型監査と同レベルの品質が確認され、従来法からリモート法への移行によるコスト削減や業務時間の短縮効果といったベネフィットも示唆された。しかしながら、現在のところ同モデルを実装したフルスケールのリモート監査はほとんど行われていない。一方で、書類の確認やインタビュ―といった監査業務の一部のみをリモートで対応しようという取り組みは企業治験を中心に進められている。主に、クラウドサービスを活用した文書ファイルの共有やオンライン会議システムを用いたインタビューの実施であり、新型コロナウイルス感染症拡大に伴って社会全体に普及したリモートワークの手法に通じるものである。これに伴い、リモート対応が難しいとされるのが"データの確認"と"施設ツアー"である。個人情報を含む診療録等の原資料の閲覧や、試験・研究関連設備の確認をリモートで行うことに対する懸念が根強くあり、それを克服するための手法が普及していないことがその背景にあると考えられている。本セッションでは、我々が構築した戦略的なリモート監査モデルとともに、新型コロナウイルス感染症拡大下で実際に行われている監査のリモート的アプローチを報告する。