肺癌診療では75歳以上を高齢者と定義することが多く、日本の肺癌患者の高齢化は年々進んでいる。加齢に伴い薬物動態(吸収・分布・代謝・排泄)の変化が起き、また慢性疾患の合併が増え、薬剤相互作用のリスクが増加する。薬物体内動態(PK)は、加齢、臓器機能、併用薬などの影響を受けるため、有効性/安全性を指標とする薬力学(PD)に基づくPK/PD解析から投与量や目標血中濃度を決定することは重要である。第1相試験における臨床薬理試験は、臓器機能が正常な比較的若い患者を対象とするため、高齢者および臓器機能低下患者など慎重投与例の報告は少ない。日本国内でも臓器横断的に抗がん薬のPK/PD臨床研究が行われ、細胞傷害性抗癌剤や分子標的治療薬の適正使用におけるPK/PD解析の有用性が報告されている。現在、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の開発が進み、高齢者に対する使用制限はないがPK/PD解析、安全性や有効性の情報は不十分である。高齢者における免疫関連有害事象(irAE)発現のリスク因子の解明、固定投与量による過剰投与の懸念など解決すべき問題点は多い。ICIのトラフ血中濃度が低い患者の有効性が低い傾向にあること、体内動態の変動要因は血中アルブミン値および患者の体重であることが報告されているが十分ではない。そのため、高齢者におけるICIの有効血中濃度と変動要因の探索は、他の抗がん薬との併用療法開発においても重要な基礎情報となる。また、遺伝子多型と薬物動態、有害事象発現の関連性が報告されているが、高齢者における報告は少ない。遺伝子多型においても網羅的解析の必要性が高まることが予想される。今後、高齢者を対象とした薬剤投与量調整指針の作成は、高齢化の日本における医療経済、precision medicineの推進において喫緊の課題である。