抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA)関連血管炎は血管炎症候群のうちの一つで、自己抗体であるANCAの存在と小型血管の壊死性血管炎を特徴とする血管炎である。無治療では80%の患者が亡くなるとされ、かつては予後不良な疾患であった。1990年代以降、海外を中心に多くの臨床試験が実施され、治療法の進歩に伴いその予後は改善した。現在の標準治療である大量ステロイド+シクロホスファミドもしくはリツキシマブにより、寛解導入率は80%に達している。しかし、未だに5年生存率は80%で、その原因としては大量ステロイドに起因する感染症死が最も多い。また、糖尿病や脂質異常、骨粗鬆症など大量ステロイドに伴う副作用により患者のQOLは大きく損なわれている。 B細胞系列が産生するANCAは、好中球と結合し、好中球を異常活性化する。活性化した好中球が血管壁に炎症を起こすことが、ANCA関連血管炎の本態だと考えられている。一方、リツキシマブはB細胞の表面抗原CD20に対するモノクローナル抗体で、B細胞除去という従来の免疫抑制剤にはないユニークな機序によりANCA関連血管炎に対する効果を発揮する。海外で実施されたRAVE試験とRUTUXVAS試験において、リツキシマブは大量ステロイド併用下でシクロホスファミドと同等の有効性を示し、2013年には我が国でも公知申請によりANCA関連血管炎の治療薬として承認された。 現在のANCA関連血管炎治療において、標準治療の問題点である大量ステロイドに伴う種々の副作用の軽減のため、ステロイド減量が望まれていた。しかし、従来型の免疫抑制剤ではステロイドを減量すると有効性も減弱するとの結果が小規模な試験やメタアナリシスで示唆されていた。我々は、新規の作用機序を持つリツキシマブであればステロイドの減量が可能かもしれないと考え、臨床試験(LoVAS試験)を実施した。低用量ステロイド+リツキシマブ治療は大量ステロイド+リツキシマブに対し有効性は非劣性、有害事象の大幅な減少を認めた(Furuta et al. JAMA, 2021)。試験を実施するに至った経緯および結果を紹介する。