筋萎縮性側索硬化症(ALS)は神経変性疾患の中でも特に進行が早く、平均生存期間は3-5年とされている。本邦の患者数は約1万人と推計されており、希少疾病の部類に含まれる。全国の神経内科専門医数は2018年の時点で約5500名であるため、1人の神経内科医が担当するALS患者も2名程度と少ない。米国では1970年代からALSの治験や研究促進のために、ALSの専門外来である多職種連携診療(multidisciplinary clinic:MDC)が開設されるようになった。多くの専門家を同じ場所で同じ時間帯に集結させ、患者が抱える様々な問題を一度の診療で解決するシステムである。一度に多くの患者が来院するため、希少疾患であるにも関わらず治験や研究が活発化するようになった。その後米国ALS協会や筋ジス協会が中心になり全米各地で施設認定を行い、その中でも治験を実施する環境が十分に整備されている約70のALS-MDC施設を厳選し、これらの施設でのみ治験を実施するようになっている。しかし、欧米中心にMDCが整備されてきたにも関わらず、50件以上行われてきたALSのdisease-modifying therapyのランダム化比較試験のほとんどが失敗に終わってきた。薬効評価も臨床評価スケールなどが中心で、診断ならびに治療効果を判定するバイオマーカーが欠如していることが大きな原因として挙げられている。そのため、現在は原因遺伝子別やバイオマーカーを用いたALSの個別化医治療を視野に入れる段階になっている。 現在ALSの治験は、世界各地で少なくても50件以上が実施されている。治験件数のトップは米国で、本邦は数件のみの世界10位以下と大きな遅れをとっている。治験に参加できるのは、病初期の患者に限定される場合がほとんどのため、米国では多くの治験数に参加者が追いつかない状況になっている。このような状況下において、北米中心のNEALSというコンソーシアムでは、数種類の治験薬を同時に組み込むプラットフォーム治験が実施されるようになった。治験薬同士の効果も比較できる上、治験に要する時間が通常の約半分で、治験コストとプラセボの約1/3を削減することにも成功した。本講演では、2020年にアジアで初めてNEALSの施設として承認された東邦大学脳神経内科のALS MDC(通称"ALSクリニック")も併せて紹介する。