オナセムノゲン アベパルボベク(以下、本製品)は脊髄性筋萎縮症(SMA)の原因遺伝子であるヒト運動神経細胞生存(SMN)タンパク質をコードする遺伝子が組み込まれた、非増殖性のアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)を利用した遺伝子治療用ベクター製品である。SMAは下位運動ニューロン病であり、脊髄の前角細胞の喪失及び変性により体幹及び四肢の近位部優位の進行性筋力低下並びに筋萎縮をきたす。本製品は、SMAの根本原因であるSMN1遺伝子の機能欠損を補って運動ニューロンのSMNタンパク質発現量を増加させ、脊髄運動ニューロンの変性・消失を防ぎ、神経及び筋肉の機能を高め、筋萎縮を防ぐことで、SMA患者の生命予後及び運動機能の改善が見込まれる。本邦では、海外での臨床試験成績に加え、本邦からも参加したSMA患者を対象とした国際共同第3相試験の結果等に基づき、2020年3月に2歳未満の「脊髄性筋萎縮症」に対する製造販売承認を取得した。遺伝子治療用製品の安全性を考慮する上で、規制当局では「遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性の確保について」に基本的な技術的事項が示されている。本製品では、当該通知に基づきマウス及びカニクイザルを用いた非臨床安全性試験が実施されており、毒性標的臓器として心臓、肝臓、及び脊髄の後根神経節が特定され、それぞれの臓器で炎症性変化が認められた。1型SMA患者を対象とした海外第1相試験では、13/15例で重篤な有害事象を認めたが死亡例及び中止例はいなかった。主要な有効性評価項目である「出生から永続的な呼吸補助が必要となる又は死亡までの期間」について、投与後24ヵ月時点で全15例が永続的な呼吸補助を必要とせず生存していた。臨床試験では重大な副作用として肝機能検査異常、肝不全や血小板減少症が認められ、市販後安全性調査では血栓性微小血管症が報告されたが、認められた有効性とのリスク&ベネフィットバランスを考慮して安全性は許容可能と判断された。上記の非臨床及び臨床成績を踏まえて、肝毒性・心毒性・血小板減少症及び血栓性微小血管症の発現状況、肝毒性の軽減を目的としたプレドニゾロン投与、並びに肝機能検査、血小板数及び心筋トロポニンI等のモニタリング方法について、医療現場に注意喚起することに至った。本講演では、非臨床及び臨床の知見から本製品の安全性評価に焦点をあてることで、遺伝子治療用製品を開発するために必要な視点について皆様と共有したい。