現在、欧米を中心に難治性疾患に対する遺伝子細胞治療が数多く開発され、その有効性・安全性の観点から複数の遺伝子治療用製品が医薬品(再生医療等製品)として承認されている。特に、ウイルスベクターを直接患者体内の投与するin vivo遺伝子治療は投与部位あるいは至適promoter/ enhancer等を選択することで全身臓器が対象となり、さらにはヒトに対し病原性がないとされるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの改良にて静脈投与が可能となったことからその可能性が急速に拡大し、これまでにも遺伝性網膜色素変性症や神経性筋萎縮症、筋ジストロフィーなどの神経・筋疾患に対する有効な治療法として開発が進められている。
一方、遺伝子治療で用いられるウイルスベクターは、「遺伝子組換え生物の使用等の規制による生物の多様性の確保の関する法律」(以下「カルタヘナ法」という。)の遺伝子組換え生物等に該当し、また、治療施設でのウイルスベクターが、通常、環境中への拡散防止措置を執らずに使用されるため、治療施設はカルタヘナ法第一種使用規程に則った対応が求められる。その使用内容は「ヒトの遺伝子治療を目的とした投与、保管、運搬及び廃棄並びにこれらに付随する行為」とあり、具体的には「本遺伝子組換え生物等の原液の保管」、「本遺伝子組換え生物等の原液の希釈液の調製及び保管」、「運搬」、「患者への投与」、「投与後の患者からの排出等の管理」、「患者検体の取扱い」、「感染性廃棄物の処理」の7つに分類される。ただ、その使用規程の内容は製品ごとに異なり、さらには同一ウイルスベクター種であっても投与量や投与部位によってその使用規程の要件が異なるため、これら遺伝子治療用製品の導入に際しては医療機関が独自にその使用規程の運用を決定する必要がある。
そこで、本シンポジウムでは、現在、国内医療機関においてウイルスベクターによる遺伝子治療用製品を扱う際に必要となるカルタヘナ法第一種使用規程の概要を説明し、当センターがこれまで複数の遺伝子治療用製品を導入する際に経験してきた課題とその解決策を提示し、今後の国内での安全な遺伝子治療の実施体制の構築を検討する。