近年,神経筋疾患を対象とした遺伝子治療薬の開発がめざましく,脊髄性筋萎縮症(SMA)では2020年5月にOnasemnogene abeparvovec(Novartis)が製造販売承認された. SMAはSMN1遺伝子変異が原因で,脊髄前角細胞の変性・脱落により,進行性の筋力低下を認める疾患である.その他,Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)とX連鎖性ミオチュブラーミオパチー(XLMTM)でも臨床試験が国内外で進められている.DMDは筋線維の変性・壊死を主病変とし, 乳幼児期以降に進行性の筋力低下をみる.原因はDMD遺伝子で,複数の遺伝子治療薬の臨床試験が行われている.XLMTMは生後間なく全身の高度筋力低下を呈し,MTM1遺伝子変異が原因である.XLMTMの遺伝子治療薬の臨床試験では投与後に死亡例が発生し,試験は一時停止となっている.いずれの治療薬もアデノ随伴ウイルスが使用されており,本邦では遺伝子組換え生物等を使用する際の規制措置を講じたカルタヘナ法を遵守する必要がある.新生児から学童といった幅広い年齢層の小児が対象となることが多く,疾患による筋力低下,精神運動発達レベル,病状などに応じて様々な工夫が必要である.また,遺伝子治療薬の安全性は不明な点も多く,疾患特異的な有害事象が発生するか不明であり,疾患特性や自然歴をよく理解して薬剤投与に臨む必要がある.当センターでは遺伝子治療を安全に実施するために医師,看護師,薬剤師,検査技師,栄養士を始めとした多職種によるチームを結成し,実施体制整備を行った.スタッフ教育,手順書整備,カルタヘナ法対応の方法等についてご紹介する.