医薬品、医療機器、再生医療等製品の承認申請等におけるレジストリデータの利活用については、厚生労働省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、専門家との協議を踏まえ、申請者である製薬企業等に対する文書として、「承認申請等におけるレジストリの活用に関する基本的考え方」及び「レジストリデータを承認申請等に利用する場合の信頼性担保のための留意点」を 本年3月23日に発出した。また、AMED「患者レジストリデータを活用した、臨床開発の効率化に関わるレギュラトリーサイエンス研究(課題番号:JP21mk0101154)」研究班(研究開発代表者:柴田大朗)の2つの分担班の一つである「品質マネジメントシステムのあり方及び留意事項の検討」分担班(「QMS分担班」;代表:小居秀紀)において、レジストリ保有者となるアカデミアに向けた成果物「レジストリデータを医薬品等の承認申請資料等として活用する場合におけるデータの信頼性担保に資する運営・管理に関する留意点」を作成した。
一方、いわゆる医学系指針とゲノム指針を統合した新しい倫理指針(「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」が、同じく3月23日に発出され、6月30日から施行となった。従来の倫理指針からの主な改正点は、「一括した審査」の原則化(一研究一審査)、「研究協力機関」の新設、「e-consent(電磁的同意)」の新設、等であるが、中央一括倫理審査を選択し、研究協力機関及びe-consentを導入した前向き研究が、今後増えてくると思われる。その典型的な事例の一つが患者レジストリ構築に関わる主たる研究であり、GCP Renovation で検討される ICH E6(R3)・Annex 2 における pragmatic clinical trialsの具体例にもなると考える。
なお、AMED・柴田班の成果物の中でも整理しているが、レジストリデータの薬事制度下での利活用推進の大きな課題の一つが、"医薬品医療機器法(ICH)の世界"と"倫理指針の世界"の壁と考える。これは、規制側の壁と研究者側の壁と言えるかもしれない。
本発表では、レジストリデータの信頼性を中心とした薬事制度下での利活用に関する留意点や、国立精神・神経医療研究センターにおける具体的な事例についてご紹介し、新しい倫理指針の円滑な運用も踏まえた、レジストリデータの薬事制度下での利活用推進の方策について議論したい。