製薬企業におけるリアルワールドデータの利活用は,レセプトやDPCデータ等の医療管理データが先行していたが,近年,疾患レジストリデータの利活用が盛んになってきている。PMDAにより「医薬品レジストリ活用相談」及び「医薬品レジストリ信頼性調査相談」が設置され,厚生労働省から「承認申請等におけるレジストリの活用に関する基本的考え方」及び「レジストリデータを承認申請等に利用する場合の信頼性担保のための留意点」が本年3月に発出された。また,CIN推進支援事業として,疾患レジストリの構築支援,レジストリ検索システムの公開,疾患レジストリ保有者と利用者のマッチングに関する事業が進められており,製薬企業が疾患レジストリを利活用する環境が整備されつつある。
疾患レジストリは,臨床試験の立案・実施段階においては,市場性調査,実施可能性調査,患者リクルートメント,Registry-based randomized clinical trial等での利活用が期待される。患者リクルートメントでの具体的な事例として,デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬のビルテプソの医師主導治験において,神経・筋疾患のレジストリであるRemudyを用いて,効率的に患者リクルートメントが行われたとの報告がある。
承認申請段階においては,外部対照群や公知申請での利活用が期待される。具体的な事例として,同じくビルテプソの海外第II相試験における外部対照群としての利活用や,関節リウマチ治療薬のリウマトレックスの新用量の公知申請にて,3つのコホートデータ(IORRA,REAL,NinJa)が用いられたとの報告がある。医療機器分野では,カワスミNajuta胸部ステントグラフトシステムの国内多施設共同臨床試験の外部対照群として,日本成人心臓血管外科手術データベースのデータが用いられた。
市販後においては,改正GPSPにて導入された製造販売後データベース調査での利活用が期待される。具体的な事例として,前出のビルテプソ(Remudy-DMD),キムリア(FormsNET),アクテムラ(FormsNET),テムセル(TRUMP)等が計画されている。しかし,試験立案から市販後のいずれの段階においても利活用は開始されたばかりであり,必要な品質について製薬業界内と当局間でコンセンサスが得られている状況に至っていない。
本シンポジウムでは,規制当局,アカデミア・医療機関,製薬企業とで現状や課題を共有し,レジストリデータの薬事制度下でのより良い利活用に向けて議論したい。