肺高血圧症は特発性、先天性心疾患・膠原病、肺疾患あるいは血栓塞栓症によるもの、左心不全に伴うものなどと多彩であるが、症状を呈するに至った症例はほぼ既に進行期にあり予後は良好とはいえない。今回、我々は肺動脈性肺高血圧症を薬剤性に来した一例、および腫瘍に関連し急速に肺高血圧の出現・増悪に至った症例への薬物療法に苦慮した一例を提示する。症例1では薬剤性肺高血圧症としての被疑薬、症例2ではその治療法について議論したい。<症例1>症例は30歳前後の男性。4年前より慢性骨髄性白血病と診断されていたが、通院が不徹底な状況であった。その2年後に急性転化し8クールからなるhyper-CVAD療法を実施。それが奏功しsecond chronic phaseとして管理。最近1ヶ月前から咳嗽と労作時呼吸困難が認められた。上記症状があり循環器内科へ紹介。理学所見および心電図。胸部X線ともに右室負荷を示唆。心臓エコーでは推定右室収縮期圧は96mmHgと著明高値。右心カテーテルにおける平均肺動脈圧は43mmHgと著明高値であった。白血病治療薬を被疑薬として中止したところ、肺高血圧治療薬の導入を行うことなく肺高血圧は速やかに改善。血液疾患の進行も無く現在に至る。<症例2>50歳台半ばの女性患者。急激に進行する呼吸困難・低酸素血症を認め、近医を介して当院へ紹介。紹介時右心カテーテルによる平均肺動脈圧は48mmHgと顕著な肺動脈性肺高血圧を認めた。肺動脈血栓症は否定的で急速に肺高血圧が進み肺高血圧治療薬を導入するも無効であった。CT検査にて傍大動脈リンパ節腫張を認め、また上部内視鏡により胃癌(印環細胞癌)を認めた。肺血管に微小に塞栓した癌細胞が血小板由来増殖因子PDGFなどの血管収縮性物質の異常分泌等により末梢肺血管床平滑筋が攣縮・増殖することで肺高血圧を来すPTTM(pulmonary rumor thrombotic microangiopathy)と判断した。適応外ではあるが薬事審査委員会・薬剤部の協力を得てチロシンキナーゼ阻害薬を投与したところ劇的に肺高血圧が改善。いかし現病が進行し癌の全身転移のため半年後に亡くなられた。このような治療・診断に苦慮する症例において医師・薬剤師・臨床薬理専門家の密な連携が有効であった。