造血幹細胞移植(HSCT)は、血液がんや免疫不全症などに対し完治を目的とした治療である。同種HSCTは治療法として極めて効果的である一方、一部の患者は治療後に移植片対宿主病(GVHD)を発症する。免疫抑制薬タクロリムスは、このGVHD発症を予防するために使用されるキードラッグである。血中タクロリムス濃度とGVHD予防における臨床的有効性や毒性は高い相関関係にあり、その血中濃度の治療域は狭く緻密なコントロールが必要である。さらにタクロリムスの薬物動態は個人差が大きく、TDMによる血中濃度管理の必要性は極めて高い。我々はこの個人差をもたらす要因について、臨床薬理学的なアプローチにより研究を行っている。
 タクロリムスの薬物動態の個人差を決定する因子は多数存在するが、その1つに、血液中では赤血球に分布するというユニークな薬物特性がある。我々は、薬物動態の個人差においてタクロリムスと赤血球の相互作用を議論することの重要性を明らかにすることを目的とし、ヒトにおける赤血球数変動がタクロリムス血中濃度に及ぼす影響について臨床研究を実施した。その結果、造血幹細胞移植患者において、短期的な赤血球数の変動がタクロリムス血中濃度変化を生じさせることを見出している。
 また、タクロリムスの薬物動態の個人差を決定する因子として、薬物代謝酵素cytochrome P450 (CYP) 3A5の遺伝子多型もよく知られている。しかしながら、タクロリムスをGVHD予防に使用する際のCYP3A5遺伝子多型を用いた投与設計法は十分に確立されていない。そこで我々は、タクロリムス初期投与設計法確立につながる有益な知見を得ることを目的とした臨床研究を計画し、同種HSCT患者におけるCYP3A5遺伝子多型(*3)とタクロリムス投与開始時の血中濃度変化の個人差の関係を解析した。その結果、投与開始後のタクロリムス血中濃度/投与量比推移の個人差を決定する重要な因子の1つがCYP3A5遺伝子多型であることを見出している。
 本シンポジウムでは、これらの研究から我々が得た知見について紹介しながら、タクロリムス体内動態の個人差について議論を深めたい。