薬物の吸収動態は投与条件や消化管内生理環境の影響を受け易いため、飲食による生理環境の変化とそれに伴う薬物吸収変動を注視・予測することは、円滑な医薬品開発を実現する上で重要となる。実際に、日米欧の医薬品規制当局(PMDA、FDA、EMA)でも、食事が及ぼす薬物吸収への影響を懸念して、高カロリーおよび高脂肪の試験食を用いた臨床試験の実施が推奨されている。しかし、飲食の影響は、薬物の性質や生理環境・機能の変化に依存して、複雑かつ不規則な薬物吸収変動(正、負、または影響なし)を引き起こすため、その変動を一元的に予測することは困難となる。
最近では、医薬品ごとに観察されるこれら複雑な変動傾向を、溶解性と膜透過性に基づいたクラス分類法「BCS (Biopharmaceutics Classification System)」により考察する手法が試みられている。例えば、BCS class I (高溶解性/高膜透過性)の薬物は、食事の影響が観察されない可能性が高く、 BCS class II (低溶解性/高膜透過性)の薬物は、溶解性の増大や代謝酵素阻害に起因した吸収増大(正の影響)が観察される可能性が高い。一方、BCS class III (高溶解性/低膜透過性)の薬物は、胃内容排出の遅延やトランスポーター阻害に起因した吸収低下(負の影響)が推察されているが、その是非は依然として明白ではなく、より詳細な検討・解析が必要とされている。
当研究グループでは、近年、溶液浸透圧に起因した消化管内水分量の変化が、薬物濃度変動(希釈/濃縮)に伴う吸収変動を引き起こすことを見出してきた。また、これらのメカニズムが「薬物-飲食物間相互作用」の一因となる可能性を示すと共に、その影響を評価する上で、薬物の膜透過性が重要な情報となり得ることを明らかにした。例えば、BCS class Iの薬物では、水分挙動の影響を受けることなく速やかに吸収されるため、見掛け上、飲食の影響を受けない一方で、BCS class IIIの薬物では、水分分泌に伴う薬物希釈により吸収性の低下(負の影響)を引き起こす可能性が示された。しかし、摂取された飲食物(成分)はそれ自体が吸収される可能性があるため、浸透圧変動に伴う水分挙動ならびにその薬物吸収動態への影響は複雑になる。本講演では、薬物-飲食物間相互作用を予測するための方法論として、消化管内における薬物動態、食事成分動態、浸透圧変動ならびに水分挙動を定量的かつdynamicに考察することの重要性を概説する。