食事は消化管内の様々な生理条件を変化させる。このうち小腸内の胆汁ミセルの濃度は食後に増加し,薬物と結合することで経口吸収性を変化させることが知られている。興味深いことに,胆汁ミセル結合は薬物の経口吸収を増加させる(正の影響)こともあれば,減少させる(負の影響)こともある。胆汁ミセル結合が薬物によって異なる吸収性の変化をもたらす理由は,薬物吸収の律速段階に基づいて理論的に考察されている[1]。溶解度と非攪拌水層の透過性が吸収の律速となる薬物(目安としてpH6.5におけるlogDが2以上の難溶性薬物)の場合,薬物が胆汁ミセルと結合して可溶化することで非攪拌水層を透過するため,食後に吸収は増加する。一方,上皮細胞膜の透過性が吸収の律速となる薬物(目安としてpH6.5におけるlogDが0.5未満の易溶性薬物)の場合,胆汁ミセルと結合することで上皮細胞膜の透過に寄与するフリーの薬物分子が減少するため,食後に吸収は減少する。
胆汁ミセル分配係数などの薬物固有パラメータ,小腸内胆汁酸濃度などの生理学的パラメータ,そしてそれらの関係を記述する経口吸収理論によって,胆汁ミセル結合が薬物吸収に及ぼす影響を定量的に予測することが理論上は可能である。しかしながら,胆汁ミセル結合による食事の負の影響を定量的に予測した報告は少ない。上皮細胞膜の透過性が律速となる薬物は一般的に高い溶解性を有するため,胆汁ミセル存在/非存在下における溶解度の比から胆汁ミセル分配係数を算出することが難しいためである。
そこで,胆汁ミセル存在/非存在下におけるCaco-2細胞膜の透過係数の比から胆汁ミセル分配係数を算出することで食事の負の影響の予測を試みた[2]。11薬物をモデル薬物として用いた。これらモデル薬物の多くは臨床で食事の負の影響が観察されている。吸収の律速段階や胆汁ミセル結合を考慮した経口吸収メカニズムベースモデルを用いて絶食及び食後条件下のヒトにおける吸収率を予測した。4級アンモニウムである3化合物を除いた8化合物は,臨床におけるAUC比(食後/絶食)を1.5倍以内の誤差で適切に予測することができた。
[1] Eur J Pharm Sci. 2010;40(2):118-24.
[2] Eur J Pharm Sci. 2020;155:105543