Muse細胞は生体内に存在し、骨髄から血液を通じて各組織に定常的に供給され、組織を構成する細胞に自発分化して傷害細胞を置き換えて修復し、組織恒常性に関わる非腫瘍性の多能性修復幹細胞である。骨髄・末梢血・各臓器の結合組織に分布し、傷害細胞・死細胞を組織恒常性に寄与している。脳梗塞などの大きな傷害では臓器共通の傷害シグナルsphingosine-1-phosphateを検知し、傷害部位に集積して「場の論理」に応じて組織を構成する細胞に分化し、血管等を含めて修復する。HLA-Gの発現など特異な免疫特権を有するため、ドナーMuse細胞はHLA適合や免疫抑制剤無しに長期間、分化状態を維持して組織内で生存できる。
Muse細胞は遺伝子導入による多能性獲得や分化誘導操作が不要であり、点滴投与で傷害部位に選択的に集積するため、外科手術も原則不要である。現在、心筋梗塞、脳梗塞、表皮水疱症、脊髄損傷、新生児低酸素性虚血脳症、ALS, 新型コロナ急性呼吸逼迫症候群への治験が行われており、これら全てがドナーMuse細胞の直接の点滴投与である。
脳梗塞のプラセボ対照二重盲検比較試験において、Muse細胞製剤が投与された群の約70%は寝たきり・失禁状態(mRS5)ないし歩行や身体的要求には介助が必要な状態(mRS4)から、一年後には公共交通機関を介助なしに利用できるなど身の回りの事が出来る状態(mRS2以下)となり、さらに約30%は発症前の生活にほぼ戻り職場復帰を果たした(mRS1)ことが明らかとなった。Muse細胞は今後の医療を大きく変える可能性があり、今後の展望について考察する。