抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドラインは平成17年に一度改訂されたが、その後に抗悪性腫瘍薬の開発は大きく変化した。がん遺伝子検査に基づいた希少なサブタイプを対象とした分子標的薬の開発がなされ、さらに共通の遺伝子異常を有するがんにたいしがん種を超えてtumor agnosticに承認される事例も出現した。近年では免疫チェックポイント阻害薬が大きな効果を示し盛んに臨床開発がされているが、これらは効果も副作用も従来の抗悪性腫瘍薬とは大きく異なった特徴を有している。平成17年に改訂されたガイドラインではこれらに対応困難となっており、このたび抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドラインを改訂し、厚生労働省から令和3年3月31日に発出された。今回の改訂では日本から国際共同第I相試験に参加する際に障害となっていた入院管理を、十分な安全対策がとれる環境では不要とした。これらにより我が国でのFirst in humanの薬剤開発が進むことを期待する。また免疫チェックポイント阻害薬では画像でpsudoprogressionを示した後に腫瘍が縮小したり、腫瘍縮小の程度が大きくなくても長期間にわたり増大を抑えたり、治療を中止しても効果が持続したりすることもある。また、免疫に基づいた副作用を生じるため、従来の抗悪性腫瘍薬とは全く異なった副作用が異なった時期に出現する。こられにも対応できるようにガイドラインを改訂した。今回の改訂の最も大きな特徴は、がん遺伝子検査に基づいた希少なサブタイプに対する分子標的薬の開発に関して章を新設したことである。その上で、第III相比較試験の実施が困難な希少なサブタイプの抗悪性腫瘍薬では単群の第II相試験で評価し、ヒストリカルデータと比較し臨床的有用性を示す考え方を明記し、また、バスケット試験やアンブレラ試験、プラットフォーム試験など新しい試験デザインのマスタープロトコルにも言及した。最近は海外企業が直接日本で抗悪性腫瘍薬を開発する事例もみられ、今回改訂したガイドラインを英文化しCancer Science誌に掲載し、海外にも情報発信した。ガイドラインの改訂作業は抗悪性腫瘍薬の臨床開発に携わるアカデミアの研究者ばかりでなく、製薬企業の関係者、規制当局、患者さんの協同作業で行った。今回の抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドラインの改訂について解説する。