新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対応し、診断/治療/予防それぞれにおいてイノベーションの推進が求められている。一方、レギュラトリーサイエンスの観点からは臨床研究に参加する被験者の保護や承認後を視野に入れた安全性情報の管理について、IRB審議へのWEB会議システムの全面的導入や必須文書の電子化に代表されるようなデジタル化の流れが一気に加速した。
 ヘルシンキ宣言に示されている通り、医学の進歩は最終的には人を対象とする臨床試験に一部依存せざるを得ないため、GCPすなわち科学性、倫理性、信頼性を担保する仕組みが必要である。世界的にはGCP 刷新すなわちICH-E6(R2)とICH-E8(R1)の抜本的改訂が進みつつある。
 我が国におけるICH-GCPへの対応は、まず薬事法(現・薬機法)に基づく法令および支援体制整備として始まり、臨床研究における倫理指針や臨床研究支援体制の整備へと広がった。特に、2006年に研究戦略開発センター(JST/CRDS)から提言された臨床研究基本法(仮称)と臨床研究開発複合体を骨子とする臨床研究システムの抜本的改革は、2014年の健康・医療戦略推進法およびAMED法、および2017年の臨床研究法につながり、倫理審査委員会に法的根拠を与えるとともに、GCPの本質である「被験者保護」と「インテグリティ」を担保しつつ患者中心の社会貢献としての臨床研究の基盤となった。
 臨床研究法及び関連する法令や諸通知の成立過程においては、「インテグリティ」に対する議論と比較して「被験者保護」に対する議論が少なかった。しかしながら、国会における附帯決議では「被験者保護」と「国際整合性確保」が明示されている。従って、特に安全性情報の管理については、DSUR / PBRER / RMP等の国際基準を念頭に簡素化と質の向上の両立を図ることが重要である。
 本教育講演では、レギュラトリーサイエンスの手法であるGCPコンパリソン法を紹介する。有害事象と疾病等、IRBと認定CRBなど、各国の指針において共通の哲学に基づき定義された用語や運用上の留意点について、研究責任医師がつなぐ「思い入れ」と生物統計家が防ぐ「思い込み」を対比しながら、GCPを熟知する各職種のプロフェッショナルとともに理解を深めたい。