臨床研究の本質は「イノベーションの推進」と「被験者の保護」であり、その目的のために「適切にマネジメントされた」研究組織が運営されるべきである。
我々は、臨床研究はデータの収集・データ管理を行い、分析、報告(論文化)が一連の流れであることから、試験全体に関わる「安全性情報の管理」に着目し、臨床研究法の特徴と運用面の留意点について報告した (大津,信濃ほか. 臨床評価. 46(2);303-320, 2018.)。
(1)「疾病等」を含む用語の更なる国際整合化: 臨床研究法では、安全性情報の流れにおいて、「疾病等」という用語が使用されている。しかしながら、現時点では法、施行規則、課長通知、事務連絡における用語の定義には本質的では無いものの誤解を招きやすい点があり、重篤度、因果関係、既知/未知判断等、国際整合化を念頭においた運用が重要である。
(2)リスク・ベネフィット評価の主体である「Sponsor」機能の確立とIDMCの設置: 安全性情報に関する用語として、例えば治験安全性最新報告(DSUR)、リスク管理計画(RMP)、定期的ベネフィット・リスク評価報告(PBRER)等はICH等により国際整合化されている。現時点では臨床研究法及び関連書通知に明記はされていないが、試験デザインに応じたSponsor機能の整備や、利益相反に対応した独立データモニタリング委員会(DSMC/IDMC)の設置は可能である。
(3)被験者保護の観点からのCRBの体制整備: 臨床研究法では中央IRBとしてのCRBに法的根拠を与えている。被験者保護の観点からはCRB審査の質の向上が期待される一方で、業務負荷の増大も懸念されている。具体的には、情報量の増加に伴いシグナル検出力が低下することから、既に米国FDAでは逐次報告/緊急報告と集積報告/定期報告のバランス見直しが進んでいる。
最近では、COVID-19の流行下での臨床研究基盤のパラダイムシフトの中で、これまでとは大きく異なる臨床研究の実施を経験することとなった。臨床研究の本質は変わらないまでも、新しい時代の方法論の多様化が求められていると考える。本講演では、論文化以降の研究計画の立案および実践等、最新の状況を踏まえて考察することを目的としたい。