【目的】骨髄異形成症候群(MDS)は,骨髄中の造血幹細胞異常により生じる無効造血を呈する疾患群であり,高率で急性骨髄性白血病(AML)を発症する.また,MDSから転化したAML(MDS/AML)は通常の白血病と比較して治療成績が不良である.急性骨髄性白血病に適応のある三酸化二ヒ素は融合遺伝子であるPML-RARalfaを分解することによって分化誘導を促進する.一方,As2S2はMDSや白血病細胞において,分化誘導作用を示すという報告があるが,As2S2においてもPMLタンパク質を分解する可能性が考えられる.しかしながら,その作用機序は不明な点が多い.そこで本研究は,PMLタンパク質および分化調節因子に着目し,As2S2の細胞分化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする.【方法】MDS/AML細胞株F-36P細胞にAs2S2もしくはアザシチジン(5-aza)で処理し,24,48あるいは72時間培養した.造血幹細胞分化マーカーであるCD34,CD38および赤芽球系分化マーカーであるCD235発現をフローサイトメトリー法で測定した.PML,網膜芽細胞腫タンパク質(Rb),DNAメチルトランスフェラーゼ1(DNMT1)および赤血球の分化を誘導する転写因子GATA1あるいはGATA2タンパク質発現をウエスタンブロット法で測定した. 【結果・考察】F-36P細胞におけるCD34+CD38-幹細胞の割合は,As2S2の濃度依存的に低下した(p<0.01).また,CD34+CD38-細胞におけるPMLタンパク質の発現は,CD34midCD38+細胞に比べて高いことが明らかとなった.As2S2によるPMLタンパク質分解が分化に及ぼす影響を明らかとするため,siRNAを用いてヒ素依存性PMLユビキチン化リガーゼであるRNF4タンパク質をノックダウンし分化誘導作用との関連について検討した. DNMT1,pRbおよびGATA2タンパク質の発現が低下し,CD235タンパク質発現の増加が抑制された.【結論】As2S2はF-36P細胞においてPMLタンパクを分解することによりDNMT1およびpRbタンパク質発現を抑制し,赤芽球へ分化を誘導する可能性が示唆された.