【目的】近年の心不全治療薬の進展に伴い、SGLT2阻害薬は積極的に使用される薬剤となった。循環器疾患治療中に急激なアシドーシスを来す症例もあり、当院での発現例の有無について検討した。【方法】2016年4月から2021年3月まで東京女子医科大学循環器内科入院中に219例でSGLT2阻害薬が投与されており、同対象例におけるケトアシドーシスを含めた副作用発現の有無を検討した。【結果】上記対象患者のうち、1例でケトアシドーシスの発現を認めた。症例は50歳代女性、X-2年に2型糖尿病を指摘され、HbA1c9.6%であり、ビグアナイド薬、DPP4阻害薬、SU阻害薬、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10mg)が順次開始となった。軽労作での胸部違和感を自覚するようになり、X年に狭心症精査で当科入院となった。入院時HbA1C 7.4 %であった。冠動脈造影検査で、3枝病変であり、冠動脈バイパス術予定となった。術前に抜歯の適応と判断され、抜歯を施行した。その後に低血糖も認めたため、ビグアナイド薬・SU阻害薬は中止し、スライディングスケールで対応した。抜歯1週間後、嘔吐あり、その後頻呼吸、血圧低下傾向となり、血液ガス分析でpH 6.849, HCO3 -2.1, BE -20, Lac 2.4 mmol/lと著明なアシドーシスを認めた。人工呼吸器管理、持続血液濾過透析を開始し、また血圧維持のために大量のカテコラミンを要した。糖尿病性アシドーシスと判断され、エンパグリフロジンを中止した。その後CK上昇、肺水腫、左室収縮能の低下を認め、心原性ショックと判断し、IMPELLA導入下で経皮的冠動脈形成術を行い、VA-ECMOも要した。集学的治療により1週間後にはECPELLAは離脱し、リハビリの後、生存退院となった。【結論】急激な糖尿病性アシドーシスの発症に、SGLT2阻害薬の関与も示唆された1例を経験した。今後循環器領域でSGLT2阻害薬の使用機会が増加することが予測されるが、食事量が低下するsick dayには休薬するなど治療の管理では注意が必要であると思われる。