[目的] 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は第4群の肺高血圧症に属する希少疾患である。末梢型CTEPHの治療として、バルーン肺動脈形成術(BPA)と可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤リオシグアトによるハイブリッド療法が行われている。外国人において、CTEPH患者は健常人と比較してリオシグアトの全身クリアランス(CL/F)が低下していることが報告されているが、日本人のCTEPH患者におけるリオシグアトの薬物動態は十分に検討されていない。本研究では当院のCTEPH患者2名におけるリオシグアトの薬物動態を評価し、既報の日本人健康成人パラメータと比較した。[方法] BPA施行前のリオシグアト服用中のCTEPH患者2名を対象に、リオシグアト服薬前、1回量服用後0.5、1、2、3、5時間に静脈採血した。LC/MS/MS法によりリオシグアトの血中濃度を測定し、薬物動態学的パラメータ(Cmax、AUC0-5、CL/F)を算出した。[結果] 症例1は46歳男性、リオシグアト3 mg/dayを服用中。直接経口抗凝固薬と利尿剤を併用し労作時に2 L/minで酸素療法を実施中。WHO肺高血圧症機能分類はII度で平均肺動脈圧は34 mmHgであった。リオシグアトの薬物動態パラメータはCmax: 49.05 μg/L、AUC0-5: 203.4 μg・h/L、CL/F: 3.06 L/hで、リオシグアトの有害事象として血圧低下、下痢と倦怠感を認めた。症例2は49歳女性、リオシグアト3 mg/dayを服用中。直接経口抗凝固薬と利尿剤を併用し、終日酸素2 L/minを吸入中。WHO機能分類はII度で平均肺動脈圧は34 mmHgであった。Cmax: 61.76 μg/L、AUC0-5: 249 μg・h/L、CL/F: 2.51 L/h。有害事象として血圧低下と頭痛を認めた。 [結論]上記のCTEPH患者2名においては、リオシグアトの薬物動態は日本人健康成人における報告値と近似していた。