【目的】
Doxorubicin (Dox)は累積投与量に依存して重篤な心筋症を発現することが知られている。Doxに関連した心筋症は、生命予後を著しく悪化させることが報告されているが、現在までに有効な対策は確立されておらず、予防薬の開発が喫緊の課題である。そこで、本研究では、大規模医療情報データベースを用いたドラッグリポジショニング研究によってDox誘発心筋症に対する予防薬を探索した。
【方法】
はじめに、遺伝子発現データベース(GEO) より得られたマイクロアレイデータの解析を行い、Dox投与後の心筋組織における発現変動遺伝子を抽出した。次に、創薬ツール(LINCS)を用いて、Doxによる遺伝子発現変動を打ち消す既存承認薬を探索した。さらに、有害事象自発報告データベース(FAERS)を解析し、LINCS解析によって抽出した薬剤がDox誘発心筋症の報告数に及ぼす影響を検討した。FAERS解析においても有効性が示唆された薬剤に関して、C57BL6マウスを用いてDox誘発心筋症モデルを作製し、心筋組織の炎症およびアポトーシス関連タンパク質のmRNA発現変化を評価した。
【結果】
マイクロアレイデータ解析より見出された発現変動遺伝子を用いて、LINCS解析を行った結果、既存承認薬6剤が候補薬として抽出された。FAERS解析によりこれらのうち3剤でDox誘発心筋症の報告オッズ比が減少する傾向が認められた。in vivoの検討において、Doxの投与によって上昇した心筋組織のIL-1b, IL-6およびBax/Bcl-2 mRNA発現比が予防薬候補の併用によって減少する傾向が認められた。
【考察】
異なる2種類のビッグデータ解析により抽出された3種類の既存承認薬は、臨床においてもDox誘発心筋症のリスクを軽減する薬剤となることが示唆される。Dox誘発心筋症モデルマウスを用いた検討結果から、抽出された予防薬候補は、Doxによる心筋組織の炎症反応を抑制することでアポトーシスを抑制する可能性が考えられる。
【結論】
本研究の結果から、創薬ツールおよび大規模医療情報データベース解析により見出された既存承認薬がDox誘発心筋症に対する新規予防薬となる可能性が示唆された。