【目的】睡眠障害は認知症の危険因子とされている。それらの共通の基盤として脳由来神経栄養因子(BDNF)の低下や酸化ストレスの亢進が報告されている。また、レム睡眠行動障害(RBD)はレビー小体型認知症(DLB)に先行して現れることが多い。レビー小体はリン酸化α-シヌクレイン(α-Syn)が凝集したものであるが、DLBに進展していないRBD患者におけるレビー小体や血漿中α-Synについては報告がない。そこで今回、RBDを含めた睡眠障害患者の血漿中α-Syn量、BDNF量及び酸化ストレス指標として8-ヒドロキシ-2'-デオキシグアノシン(8-OHdG)量を測定した。
【方法】対象は、睡眠障害患者20名(23~86歳)と非認知症高齢者29名(50~88歳)とした。睡眠障害群は、RBD患者(筋活動の低下を伴わないレム睡眠[RWA]のみを認めた患者を含む)(RBD群)8名と、睡眠ポリグラフ検査でRBD/RWAがないことが確認された睡眠障害患者(non RBD群)12名からなる。本研究は、北海道科学大学薬学部の研究倫理委員会より承認を得ている(16-02-010、19-01-010)。血漿中α-Syn量及びBDNF量はELISA法により、血漿中8-OHdG量は電気化学検出高速液体クロマトグラフィーにより測定した。
【結果・考察】血漿中α-Syn量、BDNF量及び8-OHdG量は、非認知症高齢者群と比較して睡眠障害群において有意に高かった(p<0.01)。また、RBD群とnon RBD群に分けても、非認知症高齢者群と比較して有意に高かった(p<0.01)。一方、RBD群とnon RBD群の間に差は認められなかった。これらの結果から、血漿中α-SynやBDNFが睡眠障害の病態や予後に関連している可能性が示唆されたが、詳細な機序は不明である。一方、血漿中8-OHdG量から、睡眠障害患者全般において酸化ストレスが生じている可能性が考えられる。
【結論】睡眠障害の病態にα-SynやBDNF、酸化ストレスが関与している可能性が示唆されたが、RBDに特異的な知見は得られなかった。本研究は少人数を対象とした検討に留まったため、今後はさらに対象人数を増やすとともに、重症度や治療内容、合併症との関連性や、経時的変化を含めて検討する必要がある。