【背景と目的】 我々は、げっ歯類を用いた行動薬理研究によって、筋萎縮性側索硬化症の治療薬であるRiluzoleが、抗不安様作用を有すること、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の副作用である協調運動障害や学習・記憶障害を示さないことを報告してきた(Sugiyama et al., 2012)。また、Riluzoleは恐怖記憶の消去学習促進作用と再固定化阻害作用を併せ持つことを報告した(Akagi et al., 2018)。このように、Riluzoleはこれまでにない特徴を有する抗不安薬となる可能性がある。一方、精神疾患に対するRiluzole処方は国内外で適応外とされているが、その効果を検討した報告が近年散見されている。そこで本研究では、不安を主症状とする精神疾患に対するRiluzoleの効果についてのエビデンスを集積するためにシステマティックレビューを行った。
【方法】 電子データベース(PubMed、PsycINFO、CINAHL、EMBASE)を用いて2021年4月までに発刊された論文を検索した。研究プロトコルは、PROSPEROに登録されている(CRD42017077873)。適格基準は、1) 研究対象者が、不安障害、パニック障害、強迫性障害(OCD)、外傷後ストレス障害(PTSD)、恐怖症に罹患した者である論文、2) Riluzoleを使用した介入研究とした。除外基準は、総説、解説、レビュー、学会抄録、症例報告とした。
【結果と考察】 検索の結果、合計745報の論文がヒットした。最終的に、PTSDを対象にした試験が2報(RCT1報、そのサブグループ解析論文1報)、OCDを対象にした試験が6報(RCT3報、Open label試験2報、既存のOpen label試験とRCTのデータを統合して解析した論文1報)、全般性不安障害(GAD)を対象にした試験が4報(小規模のOpen label 試験4報)抽出された。パニック障害、恐怖症を対象にした試験は無かった。PTSDを対象にしたRCTではPTSD症状の改善は示されなかったが、そのサブグループ解析では症状軽減効果が報告されていた。OCDでは、成人を対象にしたRCTで症状軽減効果が示されていた。GADは、小規模のOpen label 試験だけであり、うち3報は生物学的指標の探索であった。
【結論】 本システマティックレビューで得られたエビデンスは、今後の臨床試験実施に向けた体制構築と研究計画書立案のための必須の情報となる。