【目的】トレーシングレポート(TR)は、薬局薬剤師が患者から得た情報のうち、緊急性が低いものの、処方医に伝える必要があると薬局薬剤師が判断した場合に、処方医に情報伝達を行う文書を指し、処方医と薬剤師が情報共有を図ることを目的とする。大阪大学医学部附属病院(当院)では、2020年4月よりTRの運用を開始した。今回、受理したTRのうち副作用に関連したTRの内容を調査し、TRに対する病院薬剤師の介入効果について精査した。【方法】2020年4月1日から12月31日まで当院で受理したTR162件のうち副作用に関連した39件のTRを対象とした。副作用報告のうち、病院薬剤師がTR受理時に緊急性が高いと判断して処方医に電話連絡したTR(H群)(22件)と緊急性が低いと判断してカルテに記載などで対応を促したTR(L群)(17件)に分類し、副作用報告を受けた処方医の対応及び副作用情報の入手の起点について調査した。【結果・考察】H群(22件)では、薬剤中止(5件)・用法用量変更(1件)・薬局及び患者に受診勧奨などの対応を指示(8件)の計14件(64%)で副作用報告に対して速やかに処方医の対応が認められたが、L群(17件)では、薬剤中止(1件)・用法用量変更(1件)・薬局及び患者に対応を指示(1件)の計3件(18%)と処方医の対応割合は有意に低かった(P=0.003)。有意差がみられた要因としては、病院薬剤師による処方医への伝達方法の違いが影響していると考えられる。以上の結果から、受理したTRに対して、病院薬剤師が緊急性に応じて処方医に情報提供することにより、処方医が遅滞なく情報を入手することで、対応割合が高かったと考えられる。また、H群ではL群と比較し、患者から直接、薬局薬剤師に副作用の連絡・相談をした割合が高かった(64% vs 23%、P=0.054%)。つまり、薬局薬剤師が適切な服薬指導を実施することで、患者自身が薬識を持ち、また、薬局薬剤師と患者間での良好な関係性が副作用の早期発見に繋がった可能性が考えられる。【結論】受信したTRの緊急性を病院薬剤師が適切に判断して処方医に対応を促したことで服用指示の修正や用法用量の適正化、受診勧奨に繋がった可能性が示唆された。また、TRの活用は、薬局薬剤師・病院薬剤師・処方医間の情報共有に有用と考えられる。