【目的】ダサチニブは慢性骨髄性白血病(CML),フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph-ALL)のFront/2nd-line治療薬として用いられるが,投与中の急性腎障害(AKI)を経験する.また,ダサチニブ開始1-6か月後に末梢血リンパ球数が上昇し,胸水/腸炎/肺高血圧症(PH)といった有害事象との関連性が多く報告されている.しかし,AKIと胸水/腸炎/PHとの関連性,AKIと末梢血リンパ球数,大顆粒リンパ球(LGL)との関連は未検討であり,今回,ダサチニブ投与中のAKI発症要因としてそれらが関連するか後ろ向きに検討した.
【方法】対象は2008-19年の間にダサチニブが開始され,6か月以上投与された症例とし,AKIはダサチニブ開始28日以降に血清クレアチニン値が開始前より0.3mg/dL以上の上昇と定義とした.患者背景,併用薬,既往歴,血液検査値,AKI発症前後の末梢血リンパ球数の推移,胸水/腸炎/PAHの発症の有無を調査した.また,AKI発症の有無で2群に分類し,各項目を単変量解析で評価後,AKI発症を目的変数とする多変量ロジスティック解析を実施し有意項目ついてはROC解析にてcut-off値を算出した.有意水準を5%未満とし,事前に倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:19-380).
【結果】解析対象は36例,性別(M/F:25/11),年齢47(29-86)[中央値(範囲)]才,診断名;CML33例,ALL3例であり,AKIは7例(19%),胸水/腸炎/PHは22例で認めた(61%).AKI群(n=7)と非AKI群(n=29)の二群間の検討では,年齢[AKI群/非AKI群:70(40-86)/45(29-82)才],高血圧の既往[AKI群/非AKI群:4/2]、開始前のeGFR値[AKI群/非AKI群:61(37-83))/77(55-103)mL/min/1.73],胸水/腸炎/PHの発症[AKI群/非AKI群:7/15]の4項目において有意差を認めた.また,胸水/腸炎/PAHを発症した22例において,胸水/腸炎/PHの発症までの日は[AKI群/非AKI群:55(15-791)日/404(15-2491)日(p=0.047)]とAKI群で有意に短かった。一方、多変量解析では年齢が独立した危険因子とされ(オッズ比;1.10,95%信頼区間;1.02-1.20,p=0.018),ROC解析でのcut-off値は61歳(感度0.86,特異度0.86)を示した.AKI発症前後の末梢血リンパ球数は有意な変化を認めず,AKI発症例でLGLを測定できた3例では2375/μL,3235/μL,1577/μLといずれも高値を示した.
【考察】ダサチニブ投与中のAKIの発症は,先行する胸水/腸炎/PHの発症に関連する可能性と,60歳以上の患者では投与中のAKI発症のリスクになることが考えられた.