【目的】抗ヒト上皮成長因子受容体抗体薬のセツキシマブは、頭頸部がんなどに対して優れた抗腫瘍効果を示す。がん悪液質の病態では、炎症性サイトカインの活性化によってタンパク質の異化が亢進しており、セツキシマブの消失はその影響を受ける可能性がある。また、がん悪液質は骨格筋量の減少や精神神経症状を引き起こすことで、セツキシマブに対する忍容性を低下させる可能性がある。本研究では、頭頸部がん患者を対象に悪液質の進行度とその関連マーカーを評価し、血清中セツキシマブ濃度及び臨床症状との関連性について調査した。
【方法】対象は頭頸部がんに対し、セツキシマブの週1回の静脈内投与を受けている患者49名とした。セツキシマブの投与4回目以降における投与直前に採血し、血清中セツキシマブ、アルブミン、C反応性蛋白及びインターロイキン6(IL-6)濃度を測定した。血清中アルブミン及びC反応性蛋白濃度からGlasgow Prognostic Score(GPS)を算出し、悪液質の進行度を評価した。また、CTCAE ver. 4.0を用いて、セツキシマブ投与中における全身倦怠感及びせん妄の有無とその重症度を評価した。
【結果・考察】血清中セツキシマブ濃度の四分位範囲は38.7-80.4 μg/mLであり、大きな個人差が確認された。悪液質が進行したGPS 2の患者における血清中セツキシマブ濃度は、GPS 0の患者に比べて有意に低い値を示した。また、GPSの増加とともに、血清中IL-6濃度の上昇が認められ、血清中セツキシマブ濃度はIL-6濃度と負の相関を示し、アルブミン濃度と正の相関を示した。Grade 2以上の全身倦怠感を有する患者では、Grade 1以下の患者に比べて、血清中IL-6濃度が有意に高い値を示し、アルブミン濃度が有意に低い値を示した。一方、血清中セツキシマブ濃度と倦怠感の発現や重症度との間に関連性は認められなかった。また、せん妄において、その発現と血清中IL-6やセツキシマブ濃度とは関連しなかった。
【結論】がん悪液質の進行とそれに関連する炎症性サイトカイン及び血清アルブミンの挙動は、血清中セツキシマブ濃度の低下に関連していた。また、悪液質の病態における全身性の炎症は、セツキシマブによる倦怠感の重症化に寄与していた。